「ダルビッシュの相棒」が見た非凡なる才能の裏側 元専属キャッチャーが感じてきた「一流の哲学」
「フレッシュオールスターMVP選手は出世する」
そんな伝統があるそうですね。イチロー選手や青木宣親選手(ヤクルト)もMVPを受賞し、スターダムにノシ上がっています。
ただ私は「MVP賞金100万円を狙おう」なんていう野望は1ミリもありませんでした。しかし、そのMVPで首脳陣にアピールできたようで、私はその年の9月に1軍初出場を果たすことになりました。
さて、ダルビッシュ投手の投げる球というのは、人間の反射神経限界の球です。特に変化球。ストレートはキャッチャーの自分に向かってくるので捕れますが、変化球は他のピッチャーより大きく速く鋭く曲がります。それに対応しなくてはなりません。
札幌ドームは他の球場に比べて、キャッチャーからバックネットまでの距離が長いです。パスボールなどしようものなら、一塁走者は二塁どころか三塁まで進んでしまいます。
強肩強打でない私は、ダルビッシュ投手の変化球を必死に捕りました。彼のおかげでワンバウンドを止める、かなり高度なブロッキング技術が養われました。バッターが空振りするようなワンバウンドの変化球さえ止めておけば何とかなる。そういう自覚が私に芽生え、ダルビッシュ投手がマウンドに登るときに合わせ、いつの間にか私がマスクをかぶるようになっていたのです。
配球はダルビッシュが考える
ダルビッシュ投手の先発時、相手打線は他のピッチャー以上に対策を立てて試合に臨んでいたと思います。
「きょうは変化球を捨てて、全部ストレート狙いでいこう」
「今回は待球作戦だ。初球から打ちにいかず、球数を投げさせよう」
ただ、当然ながら相手の作戦は試合が実際に始まってみないと分かりません。試合前に2人でミーティングをして「こうきたら、ああしよう」という方向性を考えておきます。バッテリーをずっと組んでいたので、臨機応変にすぐ切り替えられる「あうんの呼吸」があったと思います。
彼は私の出す球種のサインに結構首を振ります。最後は自分の投げたい球をほうります。つまり、どういう球を投げて打者を打ち取っていくかという「配球」は、ダルビッシュ投手が最終的に決めるわけです。
「NPBはキャッチャー主導、MLBはピッチャー主導」と聞いたことがありますが、我々はMLBのバッテリーのような関係でした。首を振られたから面白くないなどと、私は1度も思ったことはありません。
2022年オープン戦での私の引退セレモニーのとき、ダルビッシュ投手は「鶴岡さんのリードのおかげでのびのびと投げさせてもらえた」と言ってくれました。高木豊さんのYouTubeでも「一番投げやすいのは鶴岡さん」。そんな発言も、「MLB的バッテリー」が理由だと思います。
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