伝統的な通信衛星は、高度約3万6000キロメートルの静止軌道と呼ばれる軌道に配置され、地球の自転と同期して回るため、1つの衛星が地球上の同じ地域に、継続的に通信サービスを提供することが可能である一方、地上から衛星までの距離が遠いため、伝送遅延が発生することが課題であった。
しかし、高度1000キロメートル以下の低軌道からであれば、伝送遅延が解決できる。逆に低軌道衛星の場合には、1つの衛星が同じ地域を短時間しかカバーできない課題を抱えていたが、大量の衛星を同時に運用することでそれを解消しようとしたのが、大規模な衛星コンステレーション計画であった。
この時期、アメリカでは通信以外にも、地上の観測による情報収集サービスなども含めて、次々と大規模な衛星コンステレーション計画が出現し、商業宇宙業界の地殻変動が始まっていたところ、軍事宇宙の世界では異なる変化が起こっていた。
戦闘領域となった宇宙
宇宙システムの軍事利用は、偵察衛星の利用をはじめとして冷戦初期から始まっており、必ずしも新しいことではない。しかし、湾岸戦争以降、アメリカ軍は、GPS衛星による巡航ミサイルの精密誘導や、衛星通信による無人機の運用の本格化など、戦術レベルでの宇宙システムの利用を大幅に拡大させた。現在アメリカの軍事作戦において、宇宙システムは不可欠なものとなった。
他方、2000年代以降、アメリカをはじめとする西側諸国と中国およびロシアとの地政学的な対立関係が再び深まってくると、中露両国は、アメリカ軍が作戦運用上で依存を高めていた宇宙システムに狙いを定めるようになった。
2007年には、中国が地上からミサイルを発射し、低軌道にある自国衛星を破壊したほか、両国は、地上配備型レーザーや、軌道上で他国の衛星に接近する衛星の開発・実験など、他国の宇宙システムを攻撃する能力を向上させているとたびたび報じられてきた。
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