「衛星コンステレーション」がもたらす新たな価値 国家安全保障を揺るがす新技術との付き合い方

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このような状況を受けて、2010年代の半ば以降、アメリカ政府では宇宙における脅威が強く意識されるようになり、2018年に公表されたアメリカ国家防衛戦略においては、初めて宇宙が「戦闘領域」であると位置づけられた。

ここでアメリカ軍にて重要視されたのは、宇宙システムのレジリエンス(抗たん性)を高めることであった。レジリエンスとは、仮に敵対的な行動が生起しても、自軍のミッション成功に必要な機能を提供する能力のことを指し、その手段としては、たとえば衛星本体の物理的防御力の強化や、衛星の機能の分散、冗長化などがある。

しかし、当時のアメリカ軍の宇宙システムは、過去の環境を想定して開発、運用されており、2017年に戦略軍司令官のハイテン空軍大将が、これらを「巨大で格好の標的」(large, big, fat, juicy targets)と形容したように、十分なレジリエンスを有しているとは言いがたい状況であった。

宇宙開発庁の衛星コンステレーション計画

この問題への革新的な解決策を提示したのが、2019年3月に創設された宇宙開発庁(Space Development Agency、以下SDA)であった。

SDAは国防総省内に設置された機関であり、その特徴は、①伝統的な宇宙システムの開発モデルではなく、既存の商業技術をベースとして調達要求を設定し、可能な限り迅速に独自の宇宙システムの配備を目指したこと、②それによって低軌道に数百機の小型衛星の大規模コンステレーションを構築し、通信や弾道ミサイル早期警戒等の機能をアメリカ軍に提供することを提唱した、という点にある。

これが実現すれば、仮に数機の衛星が(物理攻撃や通信妨害等で)機能不全に陥っても、残りの衛星でシステム全体の機能維持が可能となり、宇宙システムのレジリエンスを高めることができる。

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