【連載第3回:技術と国際政治】
現在、AIや量子情報科学(QIS)など、いわゆる新興技術と呼ばれる技術群が国際政治の中心的な争点の1つとなっている。それは軍事や経済社会のあり方を大きく変えるものとして期待される一方、社会的影響が依然として明確ではないものも多く、各国政府が新興技術を保有し、使用することの意味を考えさせられるようになっている。
そうした中でもアメリカが先駆けて、一連の新興技術の発展を前提に安全保障政策や産業政策の再構築を進め、ときに懸念国に対して、場合によっては同志国に対してすらパワーを行使してきたことは確かであろう。
こうした技術をパワーに転じる手続きにはいくつかのパターンがあるが、本稿では新興技術について考えるための視座の1つとして、ハードパワーとしての技術利用とそれをめぐる「想像力」の影響に焦点を当ててみたい。
ここでは「想像力」を、新たな科学技術を背景にこれまでにないシステムや戦略を構想・提示する力、また、その想像に基づいて競争の土俵を設定し、他国の想像を掻き立てて対応を強制する力と定義しておこう。
もちろん、こうした想像が実現可能性を予感させるだけの強固な科学技術基盤に裏打ちされていることも重要である。では、こうした視点から見たとき、新興技術をめぐるアメリカの取り組みはいかなるかたちで国際関係におけるパワーとして作用してきたのだろうか。
アメリカの技術戦略に見るパワー
アメリカの新興技術が戦略的な文脈で注目されるようになったきっかけの1つは、オバマ政権が提唱した「サードオフセット戦略」であった。
この戦略は、AI、ロボティクス、自律型システム、サイバー、ビッグデータ解析、3D造形等、アメリカ側に当時著しく優位性があると考えられていた技術分野に投資を集中し、あるいはそれをもとにした新たな作戦コンセプトを導入し、敵対国との間で能力の非対称性を作り出すことで、全体的な戦略的優位を維持することを狙うものであった。
一連の新興技術を軍事力に転換することで他国との関係に影響を与えようとするこうした取り組みは、最もわかりやすい技術利用のあり方といえる。同様に、経済産業の文脈においても、新興技術は新たな市場を生み出す、あるいは市場構造の変革をもたらすものと期待されてきた。
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