アメリカにパワーをもたらす技術と「想像力」 新興技術はいかにしてパワーになりうるのか

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これに対して、後者の、想像を介して技術が他国に影響を与えた過去の事例としてわかりやすいのは、レーガン政権期の「戦略防衛構想(SDI)」であろう。宇宙空間に配備したミサイルやレーザーで大陸間弾道弾を迎撃しようとしたSDIは、スターウォーズ構想とも呼ばれ、実現可能性に大きな疑念が寄せられていた。

にもかかわらず、SDIはソ連の反発とともに外交姿勢の変化をもたらしたともいわれるし、同盟国にも共同研究などを通じて構想への参加を促すなど、各国に少なからぬ影響を与えた。今日の新興技術をめぐる国家間競争は、必ずしもはっきりと技術の実用性が実証されないままに加速している点ではSDIに似ている。

ただし、アメリカの想像力に由来する戦略が、すべて狙いどおりに他国に影響を与えるとは限らない。サードオフセット戦略に話を戻せば、アメリカの狙いはあくまでもAIや宇宙といった分野で非対称な技術的優位を維持することに置かれていたはずである。

しかしそれは、他国の想像力を掻き立て、コストを賦課するようなかたちで対応を強制するという点では影響力として作用したものの、現実の帰結としては中国の急速な技術的キャッチアップにつながり、米中間の競争はむしろ対称的なものに近づいてきている。想像力を発揮することと、その帰結が想像通りになることは同じではなく、そこには当然ながら現実的な各国の力関係や利害も作用することになる。

技術をめぐる想像には何が必要なのか

このように、アメリカが新興技術をめぐって示した戦略的な「想像力」は、しばしば「現段階では用途が必ずしも明確ではない」ともみなされ、ときに基礎研究と応用が同時に展開されるかたちで実装が進む新興技術の特性とも相まって、それ自体が各国に対応を強制してきた。

こうしたことをふまえつつ今日の国際関係を考えるにあたり、次なる問題は、このような想像力が他国にとってもパワーとなりうるのかという点であろう。新興技術をめぐる国際競争が徐々に対称性を見せるようになるなか、中国やロシアといった国々がいかにしてキャッチアップから創造的なアイデアを通じて他国に影響力を与えようとする段階へと移行するのか(できるのか)といった点に注目することも重要なポイントの1つとなる。

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