アメリカにパワーをもたらす技術と「想像力」 新興技術はいかにしてパワーになりうるのか

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たとえば、2018年10月にアメリカ政府が発表した「先進製造分野におけるアメリカのリーダーシップに向けた戦略」では、新たな市場が一連の新興技術によって創出されていくことが予想された。そこで例示された技術分野には、スマート・デジタル製造システム、産業用ロボット、AI、3D造形、高機能材料、ハイブリッドエレクトロニクス、バイオマニュファクチュアリング、食料・農産物製造など多岐にわたる。

これらの新興技術を経済力・産業競争力へと転化することは、軍事応用と同様にハードパワーの形成につながる。

科学技術をパワーに転換する「想像力」

ここで注目したいのは、一連の新興技術には、徐々に実装が進んでいるものもあれば、依然として構想段階にとどまるものも含まれることである。

現在、飛躍的に実装が進んでいるAIですら、オバマ政権期にはその戦略的重要性を明示したアメリカ自身が、「依然として汎用型はおろか特化型のAIすら未熟」と認識しており、十分な運用レベルに達しないまま戦略に組み込まれていた。

それにもかかわらず、AIは軍事面においては兵器の自律化や作戦・組織運用の効率化に寄与するものになるとの見通しに基づいて、また、経済社会面でも企業経営や行政の仕組みを大きく変えるものと認識されるようになり、アメリカだけでなく世界各国がそのような能力の獲得に向けて競争的に資源を投入することになったのである。

近年急速に注目度が高まっているQIS分野も好例である。QIS分野は量子センシング、量子コンピューティング、量子ネットワークといった領域を中心に研究開発が進んでいるものの、ハードパワーとして国際政治に影響する段階には至っておらず、とりわけ軍事セクターでは実用化の判断には慎重であるべきとの論調も見られる。

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