映画「バービー」をビジネス視点で見たら凄かった 発売元マテル社の戦略はこうやって読み解く
私の解釈では、この映画はマテル社の主力ブランド「バービー」のリポジショニングというマーケティング戦略の一環だ。
リポジショニングとは、顧客の志向やターゲット市場が変化した時、その変化に応じてブランドの再活性化を行うこと。
バービーの場合、発売当初1960年代は女の子が憧れるお洒落な服を着た大人の人形だった。バービーは大ヒットして会社を支える屋台骨の製品ブランドとなった。会社の公式ウェブサイトによれば、今もバービーは1分に100体、1年間に5800万体も売れており、バービーの公式YouTubeは登録者数1000万人に達するという。
子どもたちは、昔も今も人形遊びをする。ただし、時代の変化により、バービー人形のスタイルが人間ばなれしすぎているとか、ルッキズムを助長しているといった批判が増えてきた。
この間、マテル社は宇宙飛行士のバービー(1965年)、多様な人種のバービー(1980年)、大統領候補者のバービー(1992年)を発売している。企業としては、美しさを一つの型にはめる意図はなく、人形を通じて女の子を勇気づけたい、と考えているのだろう。
物事の価値感が変わるとき、従来の価値感は…
ただ、マテル社の取り組みは、必ずしも社会に届いたとは言えない。企業が発信したいことと、消費者の受け止めのギャップを端的に示すシーンが映画の中にはある。
かつてバービー人形で遊んだ女の子が高校生になり、人間界にやってきたバービーに痛烈な批判を浴びせるのだ。バービーは女の子のコンプレックスを煽ると批判され、挙句の果てに「ファシスト」と呼ばれたバービーは、泣き出してしまう。
このシーンをマテルが認めたところに、同社が時代の変化と向き合う覚悟を感じた。誰しも、自分が良かれと思って作ってきた、変化に対応して発信してきた価値を否定されるのは心地よくない。価値観の変化がいかに速いとはいえ、もしあなたが勤務する企業の製品・サービスが、かつての顧客から酷くけなされたら、どう思うだろうか。
持続可能な経営を目指すなら、組織は変化に対応する必要がある。かつての顧客の厳しい批判を受け止め、自社が持つ製品・サービスの核となる価値を見直し、何を残して何を変えるのかを考える必要がある。
ここで大事なのは、企業が“一方的に”発信する「新しいブランドの定義」は、消費者から受け入れられない、という厳しい現実だ。
女性宇宙飛行士や女性大統領候補を時代に先駆けて製品化してきたマテル社の変化への対応が、それでは、足りないなら、何をすればいいのか。
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