ある研究は、60歳以上の高齢者に2種類の単語のどちらかをサブリミナルなプライム刺激として提示しました。
研究参加者の一方には、思慮深い(wise)、洞察に満ちた(insightful)、熟練した(accomplished)などのポジティブな老化に関するステレオタイプを表す単語を、もう一方の研究参加者には、老いぼれた(senile)、混乱した(confused)、ヨボヨボした(decrepit)などのネガティブな老化に関するステレオタイプを表す単語を提示しました。
この研究では、単語の長さ、英語での出現頻度、老化プロセスの相対的典型度など、さまざまな次元で単語を照合することで、その他の要因が結果に影響しないことも確認していました。
研究参加者全員は、どちらかのプライム刺激の提示を受けた後、さまざまな記憶を調べるために一連の記憶課題を行いました。
例えば、そのうちの課題の一つでは、紙の上に並べられた7つの点の列を10秒間見せられた後、その配置を再現することが求められました。別の課題では、研究者が単語のリストを読み上げた後、研究参加者は覚えている単語をできるだけ多く書き出すことが求められました。
高齢者の記憶に影響を与えるステレオタイプ
それから、2種類のプライム刺激を提示された研究参加者が、これらの記憶課題でどのような成績を示すのかについての検討が行われました。プライム刺激の提示時間は、瞬きするよりも短い時間に設定されていた、という点に留意してください。
実験の結果、老化に関するネガティブなプライム刺激にさらされた人は、ポジティブなプライム刺激にさらされた人と比べて記憶課題の成績が悪いことがわかりました。
さらに、この研究では、無意識的なプライム刺激が記憶に与える影響以外に、これらのプライム刺激が老化に対する人々の態度やステレオタイプにも影響するのかどうかについても検討が行われました。具体的には、研究参加者全員に、成人した娘と同居している、マーガレットという名前の73歳の女性が、大学の同窓会に出席するという物語を読んでもらいました。
そして、記憶力テストの一環として、この物語から思い出せる限り多くの事柄を書き出すように求めました。さらに、研究参加者は、老化に対するステレオタイプを調べるために、マーガレットに関する自分の考えや意見を述べることも求められました。
老化に関するポジティブなプライム刺激を提示されたある研究参加者は、マーガレットについて「トラウマになるような出来事の後に、新しい状況に適応しようとしている、わりとどこにでもいるおばあちゃん。子どもや孫の幸せを願っていて、同年代の人に関心がある」と記述していました。
一方、ネガティブなプライム刺激を提示されたある研究参加者は「年を取って物忘れがひどくなるのは、ほとんどの年寄りにとって自然なこと」、別の研究参加者にいたっては「アルツハイマー病」と短く記述していました。
この研究は、老化に対するステレオタイプが高齢者の記憶や加齢に対する印象に影響を与えることを示しています。そして、このプロセスが、ネガティブな手がかりが意識されずに与えられた場合でも起こりうるという、実に重要な証拠を示しているのです。
(訳/本多明生)
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