年を取って「記憶力低下」を嘆く人が知らない真実 老化へのステレオタイプが記憶に影響を与える

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その他の研究によれば、例えば、微妙にテストに対する表現の仕方を変えることによっても高齢者の記憶に影響が生じることが明らかになっています。ある研究は、若年者(17歳から24歳)と高齢者(60歳から75歳)を対象に、雑学テストを実施して、その成績を比較しました。

研究参加者全員に「ダチョウの卵をゆでるのには約4時間かかる」「ジェームズ・ガーフィールド(訳注:アメリカの第20代大統領)はアメリカ大統領の中で靴のサイズが最も大きい」など、60個の雑学をランダムに選んだリストを渡して、記憶してもらいました。

研究参加者は、このリストを学習するように指示され、後日、そのリストから無作為に選んだものを使って記憶力テストを行う、ということも伝えられました。

ところが、実際は、記憶力テストの性質について、研究参加者の条件群ごとに、微妙に異なる情報を提供しており、これこそが、研究の重要な要素でした。

若年者と高齢者を含むある条件群は、後で記憶力テストを行うので、このリストからできるだけ多くの文章を「記憶」してください、と指示されていました。

具体的には、この記憶教示条件に割り当てられた人は「この実験は、あなたの記憶がどの程度優れているかに関心があります」「次のフェーズでは、このことについての情報を得るために、あなたの記憶力をテストします」と伝えられました。

「記憶」ではなく「学習」という言葉を使ったら

一方、別の条件群には、「記憶」という言葉は使わず、リストの中からできるだけ多くの文章を「学習」してください、と指示しました。この学習教示条件に割り当てられた人は「この実験は、あなたが事実を学習する能力に関心があります」「次のフェーズでは、このことについての情報を得るために、あなたをテストします」と伝えられました。

次に、研究参加者全員に同じテストを行いました。テストでは、雑学に関する文章のリストを読んで、その正誤を評価しました。その文章には「ダチョウの卵をゆでるのには約6時間かかる」など、もともとの文章に手を加えて誤りにしたものも含まれていました。研究者は、若年者と高齢者のテスト成績を求めました。

研究者の予想どおり、テストに対する指示の仕方の変えることで、テスト成績に大きな差が生じました。学習教示条件では、高齢者と若年者の成績差は認められませんでしたが、記憶に焦点を当てた記憶教示条件では、高齢者の成績は若年者と比べて大幅に低下しました。

これらの結果は、高齢者が若年者と比べて記憶成績が悪いとは限らない、ということを示しています。実際は、高齢者は記憶力が悪い、という老化に関するステレオタイプを、高齢者が確認しようとした場合においてのみ、テスト成績が悪化するのです。

この研究は、心理学の実験によって、テストに対するフレーミング(表現の仕方)が短期記憶テストの記憶成績に影響することを示しています。ただし、この研究は、重要ではあるものの、その効果が大きいということを証明した、とまではいえないかもしれません。

ところが、テストに対する表現を微妙に変えることによって、臨床的に大きな効果が得られる可能性がある、ということは他の研究からも明らかにされています。

例えば、60歳から70歳の研究参加者を対象としたある研究は、研究参加者の半数の条件群に、「この研究では40歳から70歳がテストを受けているので、この条件群は『高齢者側』です」と教示しました。別の条件群には「この研究は60歳から70歳がテストを受けているので、この条件群は『若年者側』です」と教示しました。

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