この2つの条件群の研究参加者の半数に「記憶力と高齢者」と題した偽の記事を配布しました。
この記事には高齢者が経験する一般的な記憶障害について説明されていました。それは、約束を覚えられない、よく使うもの(鍵や眼鏡など)を置いた場所を忘れてしまう、記憶のトラブルに対処するためにカレンダーやノートを使って定期的にリマインダーやリストを作成する必要がある、などの情報を記述したものでした。
もう半数の研究参加者には「一般的な能力と高齢者」という記事を配布しました。この記事では、加齢に伴う認知機能の低下について、もっと一般的に説明されていましたが、記憶力については言及されていませんでした。そして最後に、研究参加者全員は認知症の診断に使われる標準的な記憶力テストを受けました。
研究結果は、記憶成績が悪くなることを予想することが絶大なパワーをもつことを示していました。具体的には、自分は研究参加者のなかで「高齢者」に位置すると信じて研究に参加した人のうち、老化による記憶障害について説明された記事を読んだ人の70%が認知症の診断基準を満たしたのです。
一方、他の3つのグループで認知症の診断基準を満たした人はわずか14%でした。この結果には、同じように「高齢者」に位置すると信じていたけれども、老化による記憶障害を強調していない記事を読んだ人が含まれていました。そして「若年者」に位置すると信じて研究に参加した人では、配布された記事の違いは示されませんでした。
老化による記憶の問題を耳にするだけで、日常生活に重大な影響が生じる可能性があるということは、研究から繰り返し明らかにされています。
南カリフォルニア大学のサラ・バーバー教授(老年学)は「高齢者は、老化によるネガティブなステレオタイプを信じないように気をつけなければいけません。物忘れをすべて老化のせいだと決めつけると、かえって記憶に関する問題が悪化することもあります」と指摘しています。
無意識的な手がかりによる記憶への影響
これまで説明してきた研究では、老化と記憶の関連性についてのネガティブな情報の明示、そして記憶力テストに対する微妙な表現の仕方の双方が、それぞれ記憶成績に影響することを示しています。
しかし、特に注目すべきは、サブリミナルな手がかり、つまり無意識的なレベルで処理される手がかりであっても、高齢者にネガティブなステレオタイプを想起させ、記憶成績を低下させる場合がある、ということです。
高齢者の記憶に対するこうした手がかりの効果を調べるために、研究者はサブリミナルなプライム刺激を研究参加者に提示する実験を行うことがあります。
この種の研究では、コンピューターの画面に瞬間的に単語を表示することで、研究参加者が特定の単語を意識したり、意識レベルで処理したりせずに、プライム刺激の影響を受けるようにします。この方法を使うことで、研究者は、このような無意識の、あるいはサブリミナルなプライム刺激が、行動に影響を与えるのかどうかを調べることができます。
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