「先生から通知表のコメントで『学習意欲低下』と書かれたこともありました。それはその通りなのですが、なぜ自分が勝手に教科書を先に進めて読んでいるのかということを知ろうとしてくれなかった。『聞こえないから、今どこを学んでいるのかわかっていないのだろう』と思われて、注意されることもよくありました。そうじゃないんだけどなあって」
女性にとっては、勉強はがんばってするものではなかった。ただ単に、教科書を読んでいれば、内容を理解でき、テストもできただけ。それが普通のことだとも思っていた。さらに言えば、耳が聞こえる同級生は、耳が聞こえない自分よりも、もっと勉強ができるはずだと考えていたという。
「先生が黒板に板書をしますよね。あれは、耳が聞こえない自分がノートをとるためにしてくれているのだろうと思っていましたから」
だから、テストの点数が自分より悪い同級生がいることが不思議だった。先生の話す内容を聞き取れない自分が理解できていて、聞き取れるはずの同級生がついてこられない状況が、理解できなかったのだ。「聞こえる人ってバカなんだ」と思うこともあったという。
ショックを受けたいじめの理由
そうこうしているうちに、同級生の目が冷たくなっていった。鬼ごっこで集中的にタッチされたり、集団無視されたりした。
「耳の聞こえる人たちって、なんでこんな効率悪いことするんだろうって不思議に思っていました」
5年生のある日。勇気を出し、学校のアンケートでいじめの被害を申告したことがあった。その後の保護者懇談で、担任の先生が、母にこう言ったという。
「聞こえないのにできるから、いじめられているようです」
女性はそれまで、同級生にいじめられるのは、耳が聞こえないからだと思っていた。耳が聞こえないから悪いのだと。それなのに、「聞こえないのにできるから」なんて、どう理解していいのかわからなかった。
「大ショックでした。それからです。障害者はバカでいたらいいのかな、そうすれば友達と仲良くなれるのかな、と思うようになったのは」
小学校の卒業式の時の写真を見せてもらった。同級生らと整列して後方を向いて立っている女性は、耳に補聴器をつけている。どこか、不安げな表情で斜め上を向いていた。(後編に続きます)
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