ビッグモーター「しくじり会見」に見る最大の弱点 強権組織は「負け戦」の正しい戦い方を知らない

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いまも“伝説の謝罪会見”と称される、1997年の山一証券破綻の際の記者会見。野澤正平社長は「みんな私ら(経営陣)が悪いんです、社員は悪くありません」と涙と鼻水まみれで謝罪しました。その姿勢は感動を呼び、多くの賞賛と同情を呼んだのです。

2022年に大規模な通信障害を起こしたKDDIは、障害発生時の記者会見で、髙橋誠社長自ら先頭に立ち、通信障害の技術的説明までほとんど1人で行いました。

実害も発生している通信インフラの障害という強烈な反発の中、髙橋社長は技術上の問題をわかりやすく説明し、「ここが問題」「この点は不明」といった全体像をしっかりと把握している様子を世間に伝えました。結果として強烈な反発を打ち消し、逆にKDDIへの信頼を高めたといわれるほどの評価を得ました。

“他人のせいにしない”ことは、謝罪による事態収拾においては絶対要件です。ビッグモーター社の場合、すべてがその逆をいっており、「社員のせい」「自分たちは知らない・関与していない」という言い訳ばかりしたことで、謝罪も反発への燃料投下にしかならなかったといえます。

なぜか謝罪会見の場で“兼重社長の功績”を称賛

さらに驚くべき発言がありました。

「弊社は、創業者の兼重宏行の“リーダーシップ”と、その“卓越したビジネスモデル”により、いまや業界を代表する企業となりました」

これは会見に同席した、7月26日付で新社長に就任した和泉伸二専務取締役が発した言葉です。

ビッグモーター会見
反省の弁を述べながら、涙を堪える和泉伸二新社長(撮影:今井康一)

謝罪や釈明会見の場で、身内である社長のリーダーシップやビジネスモデルを褒め称えるというのも、これまた異例のことでした。

兼重氏は一代で会社を大きく成長させただけあって、良くも悪くも強いリーダーシップがあるのは肌で感じます。しかし、今回そうした創業社長による強大すぎる経営、組織運営によって、さまざまな歪みが生まれ、不正修理や不正請求が行われた可能性が高いのです。

事態収拾を図る釈明の場で、現社長を称賛する次期社長の姿勢に、根本的な組織の弱さを見ました。それは圧倒的な強権体制、有無を言わさぬ上意下達な組織が共通して陥る“弱さ”です。

第二次世界大戦末期、敗色濃厚なナチスドイツ本営には、独ソ戦の戦況が十分に届かなくなりました。史上希に見る独裁者の機嫌を損ねるようなニュースを届ける者は、もはやドイツ軍には誰もいなかったといわれます。つまり、強権的独裁者には「悪い知らせ」は届かなくなるのです。

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