「気候変動リスク」に無関心な企業は淘汰される 「世界資源エネルギー問題」は経営の必修知識

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第2に、各国のエネルギー政策は、自然環境に加え、歴史的、地政学的な制約の中で作られてきたものであり、その背景や違いを理解することが重要です。

現在気候変動をめぐる論点の一つは、「化石燃料から再エネへの一足飛びの転換を図るか」あるいは「化石燃料の使用を段階的に減らしていくトランジションを選ぶか」ということです。

EUの目指す方向は基本的には前者ですが、再エネに適した環境が乏しい日本は、後者が現実的な選択といえます。すなわち再エネを増やしつつ、なお残る化石燃料利用を高度化し、排出を吸収する手段や、二酸化炭素回収貯留(CCS)を含めて、全体で排出をゼロにするという組み合わせです。

日本はアジア諸国と連携を

人口規模に比して、再エネの潜在性が少ないアジア諸国も、共通する事情を持っているため、日本としては、アジアで仲間づくりを進め、「実情に沿ったトランジション」を提唱したいという気持ちがあると思います。日本政府が注力しているトランジションファイナンスは、グリーンな事業ではないが低炭素社会に移行するためのプロジェクトに資金を提供するものです。

ただ本書が述べているように、アジア諸国といっても経済発展の度合い、人口、中国との関係、資源の有無、などに大きな違いがあります。例えばタイ、ベトナムなどは、再エネの導入に積極的です。インドネシア、フィリピンは、多数の島から構成されているため、電力の輸送に難しさがあり、化石燃料に頼らざるをえません。日本政府や日本企業は、各国の事情を十分に理解したうえで、トランジションのプロジェクトやファイナンスに関わっていくことが求められます。

また一方で、トランジションファイナンスは欧米の投資家の基準とも整合的である必要があります。「ネットカーボンゼロへの移行を単に遅らせるもの」と捉えられないように実効性、透明性を高めて、国際的にプレゼンスを拡大していく必要があります。

次ページ国の存亡を左右する今後のエネルギー政策
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