「気候変動リスク」に無関心な企業は淘汰される 「世界資源エネルギー問題」は経営の必修知識

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2020年現在日本の電源構成をみると、化石燃料由来の火力発電が76%を占め、石炭火力への依存度は31%とG7の中では最も高くなっています。2021年の第6次エネルギー基本計画では、2030年には原子力を3.9%から20~22%に、再エネを19.5%から36~38%に増加させることになっていますが、かなり高い目標に見えます。また計画どおり実現したとしても、コスト上昇による企業の競争力や、個人の生活への影響が懸念されます。

産業構造としても、鉄鋼、化学、機械設備などの多排出産業のウェイトが高いほか、主力の自動車産業についても、エンジン車の比率が高いため、今後大幅な産業構造の転換や再編が不可避となるでしょう。

3つの目的をバランスさせることが重要

近著『世界資源エネルギー入門』(東洋経済新報社)は、激動する世界の資源エネルギー情勢を俯瞰するとともに、日本の将来を考えるうえで、重要な視点や提言を述べています。

筆者の平田竹男(早稲田大学教授)氏は、経済産業省で資源エネルギー戦略の立案や交渉に携わり、またブラジルでは第1回国連環境開発会議(地球サミット)の事務局を務めるなど、早くから資源、環境の国際舞台で活躍してきました。南米、中東にも頻繁に足を運び、政治、スポーツの分野にも造詣が深く、その多面的な視点は本書にも生かされています。

本書の掲げるポイントとして、第1にエネルギー政策のバランスの重要性があります。

従来、エネルギー政策の基本的な目的は、①経済効率性(Economic Efficiency)、②エネルギー安全保障(Energy security)、③環境(Environment)という「3つのE」であり、さまざまなエネルギー源を組み合わせて、3つの目的をバランスさせることが重要です。

ESG投資の観点からは、③の環境が強調されますが、日本の低いエネルギー自給率、高い電力料金、地政学リスクを考慮したうえで、今後の政策を考える必要があることを筆者は強調しています。

四方を海で囲まれた日本は、欧州のように国家間で電力を融通しあうことができません。再エネ、原子力、水素、合成燃料とあらゆる選択肢を考慮し、官民一体で知恵を出し、研究と投資を行っていかなくてはなりません。

その際には、他国の政策も参考になると思われます。本書では、再エネの発電量を着実に増やしてきたドイツ、バイオ燃料の生産量が世界一位のブラジル、多様なエネルギーの調達を進めるとともに、太陽光、風力、電気自動車などで圧倒的な地位を占めている中国の事例を紹介しています。

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