これまでの奨学金に関する報道は、極端に悲劇的な事例が取り上げられがちだった。
たしかに返済を苦にして破産に至る人もいるが、お金という意味で言えば、「授業料の値上がり」「親側におしよせる、可処分所得の減少」「上がらない給料」など、ほかにもさまざまな要素が絡まっており、制度の是非を単体で論ずるのはなかなか難しい。また、「借りない」ことがつねに最適解とは言えず、奨学金によって人生を好転させた人も少なからず存在している。
そこで、本連載では「奨学金を借りたことで、価値観や生き方に起きた変化」という観点で、幅広い当事者に取材。さまざまなライフストーリーを通じ、高校生たちが今後の人生の参考にできるような、リアルな事例を積み重ねていく。
「幼い頃に両親は離婚しています。しかし、父からの養育費は払われなかったので、母子家庭の僕たちきょうだい3人は、到底裕福とはいえない生活を送っていました。だから、奨学金は母からの勧めで借りました」
母の年収を鮮明に覚えている
今回話を聞いたのは、北海道出身の赤田裕之さん(29歳・仮名)。現在、東北の病院でX線撮影やMRI検査を行う診療放射線技師として働いている。
「両親は僕が幼い頃に離婚しており、母は僕たちきょうだいを連れて農業をやっている祖父母の家に引っ越したため、『食うものに困る』なんてことはありませんでした。だからといって、ぜいたくできるような環境でもない。母は接客業や清掃などで生計を立てていましたが、ある手続きで母の年収を見たとき、200万円だったのを鮮明に覚えています」
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