エーザイ認知症薬は「米国正式承認」で広まるのか 投与までに複数検査が必要、日本の薬価も焦点
PET検査はアメリカでは近く保険適用となる見込みなのに対し、日本では保険適用外だ。30万~80万円ほどとされる検査費用は、自己負担となる可能性がある。APOEホモ接合体について調べる遺伝子検査も、アメリカでは保険適用されているが、日本においては今のところ対象外だ。
さらにエーザイにとって悩ましいのが、薬の価格の問題だ。
日本では薬の価格が国によって定められるが、アメリカで先に承認された場合、アメリカでの価格の2分の1から3分の1程度になることが多い。これを踏まえると、日本でのレカネマブの価格は100万~200万円程度に設定される可能性がある。
国民皆保険制度の下では、保険診療の対象となる薬の価格が高ければ、財政圧迫要因となる。そのため国は投与対象者の多い薬については、できるだけ安価に設定したい意向がある。国内の認知症患者は2025年で700万人を超えるとも言われ、アルツハイマー病はその約6~7割を占める。これまで高い価格がついた薬は販売数の増加に伴い、値下げされた例もある。
エーザイとしては、長い年月と多大な費用を認知症薬の研究開発に投じてきただけに、低い価格づけや値下げはできるだけ避けたいところだ。そのため同社はレカネマブが介護費用の削減につながるという試算を発表するなど、国に対し慎重な価格設定を訴えている。
認知症部門の責任者が7月末で突如退任
レカネマブの普及へ、むしろこれからが正念場となるエーザイ。ただ足元では、その指揮を執る体制に気になる動きも起きている。
正式承認からわずか4日後の7月11日、エーザイはアルツハイマー病のグローバルオフィサーであるアイヴァン・チャン氏が7月31日付で退職すると発表した。
米国部門の最高経営責任者も兼任していたチャン氏は内藤CEOの娘婿で、業界では次期社長候補と見る向きもあった。今回のレカネマブの承認に向けて先頭で対応に当たり、これまでの会見でも、アメリカでのレカネマブについての質問は主にチャン氏が回答していた。
このタイミングでの退職について、エーザイは「本人のキャリアの意向」としているが、エーザイ関係者からは「知らなかった。不思議な人事だ」と驚きの声も上がる。
チャン氏の退任を受け、米国部門の最高経営責任者は安野達之CFOが就任し、アルツハイマー病のグローバルオフィサーは内藤景介チーフストラテジー&プランニングオフィサーが兼任するという。内藤景介氏は内藤CEOの息子で、まだ30代半ばという若さだ。
キーマンなき後、会社をレカネマブによって成長していく姿へと導けるか。今回の正式承認が、エーザイにとって大きな節目となることは間違いない。
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