エーザイ認知症薬は「米国正式承認」で広まるのか 投与までに複数検査が必要、日本の薬価も焦点
エーザイによれば、アメリカでレカネマブを必要とする患者の診断から投与、その後のモニタリングまで行える準備が整った神経科医は現時点で約1200人。2023年度のアメリカでの使用者は約1万人と見込む。この中には、低所得者層への無償提供も含まれる。
ただし、レカネマブの本格的な普及には多くのハードルが立ちはだかる。
1つ目は、アルツハイマー病の「早期」段階の患者を対象としている点だ。早期段階では多くの場合、本人が病気の事実を認めたがらなかったり、家族など周囲の人も、アルツハイマー病と気づけなかったりする。また、医師の診断も簡単ではない。
早期段階でアルツハイマー病と診断できたとしても、次は脳内にたんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」が蓄積されているかどうか、確かめなければならない。Aβは認知症の原因とされ、レカネマブはこのAβを脳内から除去することで症状の進行を遅らせる薬だからだ。
Aβの蓄積を調べる「PET検査」は価格が高く、手軽に受けられるものではない。目下、血液バイオマーカーで判定できる仕組みが開発されているが、普及には時間がかかりそうだ。
【2023年7月14日10時02分追記】PET検査に関する表記を一部、上記の通り修正いたしました。
投与前に「遺伝子検査」も推奨
さらにFDA(アメリカ食品医薬品局)は今回の承認に際して、レカネマブ投与前に遺伝子検査を受けることを推奨した。
脳からAβを取り除く作用に関連して、脳の膨張や出血といった副作用リスクがあり、とくに特定の遺伝子(APOEホモ接合体)を持つ患者でそのリスクが高いためだ。エーザイによれば、その特定の遺伝子を持つ患者はアルツハイマー病患者全体の15%だという。
レカネマブの添付文書にはほかにも、投与期間中に数回、MRIで脳内を確認すること、抗凝固剤を服用する患者でも副作用に注意が必要といった点が記載された。薬は2週間に一度、点滴によって投与されるため、その間の介護者の負担も考慮しなければならない。
エーザイは目下、日本やヨーロッパで承認申請しており、日本では9月までに結果が出る予定だ。仮に日本で承認された場合には、これらのハードルに加えて、別の課題ものしかかる。
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