アステラスが「8000億円買収」に動いた切実な背景 新社長の就任早々に「過去最大M&A」を決断

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アステラス製薬のロゴ
眼科領域に特化したバイオ企業の買収を決めたアステラス。巨額買収の背景には、この数年で立て続けに直面した試練がある(撮影:今井康一)

「想定外」の連続が、過去最大の買収へと突き動かした。

アステラス製薬は5月1日、眼科領域の薬を開発するアメリカのアイベリック・バイオ社を59億ドル(約8000億円)で買収すると発表した。

国内の製薬業界では、首位の武田薬品工業が2019年、アイルランドの製薬大手シャイアーを約6兆円で買収したことは記憶に新しい。一方で2位のアステラスは、2010年に約40億米ドルを投じたアメリカのがん治療薬の会社の買収がこれまでで最大だった。

【2023年5月15日17時41分追記】過去最大の買収企業に関する初出時の表記を、上記の通り修正いたします。

同社史上、突出した規模となる今回の買収はかなり急いで決まったようだ。

5月1日に開かれた会見で岡村直樹社長は、アイベリック・バイオとは2022年から提携の協議はしていたが、買収に切り替えたのは、2023年3月だったと明かした。取締役会で決定するまで、わずか2カ月あまりというスピード感だ。

3月末まで社長を務めた安川健司・現会長は、2022年7月に実施した東洋経済のインタビューで「売り上げ(の目標)を達成するため、会社の規模を大きくするためのM&Aはしない」と話していた。

4月の岡村社長就任早々、これまでの方針を転換し大型買収に踏み切ったのはなぜなのか。

アステラスが目を付けた承認間近の治療薬

アイベリック・バイオは、眼科領域に特化した、従業員約260人の小規模なバイオ企業だ。設立は2007年で、発売済みの薬はまだない。

アステラスが目を付けたのが、現在アメリカで承認間近の「ACP(Avacincaptad Pegol)」という加齢黄斑変性の治療薬だ。アイベリック・バイオが開発中の薬は、ACPを除くと、臨床試験の前段階、もしくは研究段階のものにとどまる。

アメリカでの承認結果は8月に判明する予定で、アステラスは9月までに買収を完了するとしている。今回アステラスは約8000億円という額の大半を、このACPに充てたと言える。

加齢黄斑変性の主な症状は視力低下だが、ACPはその中でも「萎縮型」というタイプの後期段階の症状を対象とする。アメリカでは約160万人の患者がおり、患者の約4割が失明に至るという深刻な病気だ。

加齢によって起こりやすくなるため、高齢化に伴い今後は患者数の増加が予想されている。先行する治療薬は2023年2月にアメリカのアペリス社から発売されたばかりで、まだまだニーズの高い分野だ。

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