アステラスが「8000億円買収」に動いた切実な背景 新社長の就任早々に「過去最大M&A」を決断

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アステラスはACPの予想売上高を公表していないが、イギリスの調査会社・Evaluateは2028年時点での年間売上高を約1600億円、証券会社のクレディ・スイスの米国リサーチチームはピーク時年間売上高を約2000億円と予想している。

業界では年間の売上高が1000億円を超える大型薬は「ブロックバスター」と呼ばれ、特許が切れるまでの約10年間、会社に大きな利益をもたらす存在となる。アステラスは、ACPを2030年度までに、同社の更年期障害薬「フェゾリネタント」、抗がん剤「パドセブ」に次ぐ“第三の柱”に成長させる方針を打ち出す。

ブロックバスターに化ける可能性を秘めたACP。そこに巨費を投じた背景には、アステラスがこの数年の間に立て続けに直面した試練がある。

直近で相次いだ「想定外」の事態

現在、アステラスの収益を大きく支えているのが、前立腺がん治療薬の「イクスタンジ」。2023年3月期は約6600億円を売り上げ、全社売上高の約4割を稼ぐ大黒柱だ。しかし2027年に特許切れを控えており、その後は収益の急減が予想される。

2021年に策定した中期経営計画では、イクスタンジの特許切れ後も、重点戦略製品と、現在は早期の開発段階にある研究領域「プライマリフォーカス」の成長によって、売上高を維持することを目標に掲げている。

アステラス製薬の岡村直樹社長
4月に実施した東洋経済の取材で、岡村社長は「イクスタンジの売り上げ鈍化は予想外だ」と語っていた(撮影:今井康一)

ところがアステラスのもくろみは計画策定直後から狂い始めた。

まず、イクスタンジの売り上げの伸びの鈍化だ。主要市場であるアメリカでのインフレなどを背景に、2021年度は会社計画に対して133億円、2022年度は170億円の未達となった。

2023年度の計画は現地通貨ベースではやや成長するものの、為替影響もあり、日本円ではほぼ横ばいの見込みだ。

さらにアメリカで販売している心機能検査補助剤「レキスキャン」で、2025年までは後発品が参入しないという前提が崩れた。現地の製薬企業が出した後発品の販売停止を求める特許訴訟で、5月11日に敗訴が確定。2022年度には約900億円を稼ぎ出したが、2023年度は約6割の売り上げが失われることを想定している。

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