アステラスが「8000億円買収」に動いた切実な背景 新社長の就任早々に「過去最大M&A」を決断

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「プライマリフォーカス」における次世代品の開発でも、発売間近とみられていた遺伝子治療薬の治験が中断するという誤算が起きた。

2020年に買収した遺伝子治療薬の会社が開発していた「AT132」について、アステラスは同年中にも承認申請できる段階にあるとみて、ピーク時売上高を最大1000億円と見込んでいた。しかし買収後、死亡例が出たことから臨床試験が差し止めになり、承認申請の目標時期は後ろ倒しに。これまでに累計約900億円の減損損失を計上している。

5月1日の会見で岡村社長は「経営計画の達成に資するものがあるとすれば、比較的後期段階の開発品でないと間に合わない。そういう要素も加味しながら機会探索をした結果が、今回の買収だ」と説明した。

アステラスはこれまで、新たな技術の獲得といった側面を重視した買収を行ってきた。しかし今回は数字上の成長鈍化を避けるためにも、大型の買収をせざるを得なかったというのが正直なところだろう。

3つの柱でカバーできるか

クレディ・スイスの春田かすみアナリストは「まだ承認前なので安心材料とまでは言えないが、中期経営計画の達成に向けたパイプラインが強化された点では前向きに捉えている」と評価する。

アステラスは次世代品として眼科領域の研究開発も行っているが、まだ販売実績はない。アイベリック・バイオの知見を取り入れることで、中長期的には開発の進展や、販売網開拓などでの相乗効果も期待できる。

とはいえ超・大型薬であるイクスタンジの売り上げ喪失分を、ACPを含めた3つの柱でカバーしきれるかは不透明だ。2027年以降の成長シナリオは、まだ具体的に見えない部分が多い。

「イクスタンジ後」を担う薬として会社が大きく期待する更年期障害薬のフェゾリネタントは、ピーク時年間売上高を最大5000億円と見込む。当初の予定から約3カ月遅れる形で5月12日に承認されたばかりで、売り上げをどこまで伸ばせるかは今後の販売施策や市場環境の行方に懸かっている。

岡村社長の大胆な戦略転換は実るのか。就任早々、正念場を迎えている。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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