8. ラポート(共感)形成
プレゼンやスピーチで大切なのは聴衆を置き去りにしないことだ。常に、聴衆が知りたがっていること、聞きたがっていることを頭に置きながら、聴衆との間に共感(ラポート)の絆を作っていく。今回は、アメリカがいかに偉大で、寛容で、気前のよい国であるか(アメリカ人はこの賛辞を聞くのが何より好きだ)をこれでもかとアピールしていた。
さらに、プレゼンの最後には、高校時代にラジオから流れるキャロル・キングの曲を聞いて胸を震わせた話などを披露して、その一節を抜き出して、東日本大震災の話につなげた。アメリカの美空ひばり(?)のような彼女の歌を持ち出してくるあたりはなかなか心憎い。また、今、アメリカでもっともホットなテーマといえる女性活用について言及するなど、アメリカ人の琴線に触れるメッセージを周到に埋め込んでいる。
9. 演出
プレゼンやスピーチは話す場ではなく、演じる場である。一つの舞台と考え、演出や振り付けをしていかなければならない。特に、今回は硫黄島の戦いに加わったアメリカ海兵隊のスノーデン中将と硫黄島で戦死した栗林大将の孫の新藤前総務大臣が傍聴席で握手を交わすシーンなどは、「紛争や困難を乗り越えたら、ハッピーエンドが待っていた」という大円団的なストーリーやヒーローが大好きなアメリカ人には大いにアピールする演出だった。
10. 失敗を恐れない
プレゼンやスピーチがそもそも苦手な日本人にとって、英語のスピーチは非常にハードルが高いものだ。ネット上などでは、安倍首相の英語力をあざ笑う論調もある。発音が完璧でない、とかちょっとした文法上の間違いを恐れて、人前で話すのを躊躇する「完璧主義」が日本人の英語力の最大の障壁だ。発音をバカにされようが、練習を重ねて、大舞台に挑戦したこと自体、少しは評価されてもいいのではないか。
現地の受け止め方も好意的
現地メディアの受け止め方もは、おおむね好評だった。歴史認識について言及する論調もあったが、多くは「historic speech」(歴史的スピーチ)と位置づけ、好意的に受け止めていた。
大手有力紙の記者も、「英語の発音に難はあったが、メッセージはきちんと伝わっていた。感動的な場面もちりばめられたいいスピーチだった」と評価していた。
安倍首相は2013年9月、IOCでも磨きの掛かったスピーチを披露し、そのことが東京五輪を射止める重要な要因のひとつになった。その意味では場数を踏んでおり、自信も付けていることだろう。日本の歴代首相の中では、英語でのスピーチ、プレゼン力という点において、突出して優れたリーダーといえるかもしれない。
しかし、グローバルレベルと比べれば初級といったところ。今回の安倍首相のチャレンジを、国際舞台でのパブリックスピーキングの重要性を認識するきっかけとし、堂々とグローバルに渡り合える次世代リーダーの育成に、国として取り組んでいく必要があるのではないか。
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