マツダが「ユーノス」「アンフィニ」で追った夢 バブルに乗った拡大策はその崩壊で頓挫した

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余談だが、ユーノスのお店ではどういうわけかシトロエンも売っていた。そこでセールスマンをしていた友人がいる。自動ドアを入ってきた客が「シトロエンを……」などと口走ろうものなら、いかにしてこの客から逃れるかを思案したという。この客の担当になってはならないのだ。当時のシトロエンはよく故障したからである。

手間のかかるシトロエンを1台売ると、マツダ(ユーノス)のクルマを何台か売る機会を失うことになる。セールスマンにとっては販売手当の減少を意味する。納車から数カ月しか経っていないシトロエンで、特殊な油圧式サスペンションであるハイドロニューマチックの油圧系統が破損して、立体駐車場の下のクルマの屋根一面にオイルがべっとりこびりついたことがあるという。ひたすら頭を下げて他車の修理手配までする羽目になった友人は「セールスマンにとって生産性がない」とぼやいていた。

1990年代のクルマはこんなにも熱かった
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ユーノスは、クルマ大好き人間にとって思い出深い名車をたくさんラインナップしていた。しかし失敗した。その他大勢のそうではない人にとっては、まったく購入検討に至らないラインナップだったからだろう。

商売下手なマツダの危うさと魅力

思うに、マツダという自動車メーカーは“うぶ”なのだろう。クルマ大好き人間が何百億円もの開発費をつぎ込んで自分の欲しいクルマを作る。販売サイドから横槍は入らない。販売サイドもまた、販売効率をあまり重視しない。別の言い方をすれば〝商売下手〟。つまり、トヨタとは真逆の印象というわけだ。

おそらく本質は今も変わっていない。

新開発・直列6気筒エンジンを積む大型SUVの第1弾として「MAZDA CX-60」を2022年に投入(写真:マツダ)

誰もが低燃費にこだわるこのご時世に、直列6気筒エンジンを新しく作ってしまう。クルマ好きにはたまらないが、そんな人間は免許人口の何%いるのだろうか。ボリュームゾーンの消費者が何を求めているかを一向に考えていない(ように見える)。

100年に1度の変革期を迎えている自動車産業で、しかも大企業の事業の進め方としては大丈夫なのだろうか、と心配になってしまう。しかし、その危うさこそがマツダの魅力なのだろう。

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田中 誠司 PRストラテジスト、ポーリクロム代表取締役、THE EV TIMES編集長

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たなか せいじ / Seiji Tanaka

自動車雑誌『カーグラフィック』編集長、BMW Japan広報部長、UNIQLOグローバルPRマネジャー等を歴任。1975年生まれ。筑波大学基礎工学類卒業。EVニュースサイト「THE EV TIMES」編集長および、モノ文化を伝えるマルチメディア「PARCFERME」編集長を務める。

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加納 亨介 エディター・ライター

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かのう こうすけ / Kousuke Kano

物心ついた時からクルマ好き。ウルトラマンにも仮面ライダーにも興味が湧かず、少年時代はひたすらクルマのプラモデルを作り、成人してからはひたすらクルマを乗り回す生活。その果てにクルマ雑誌の編集者となった。趣味はスキーと山登り。

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