日本でも承認「肥満治療薬」にあるこれだけの課題 「オルリスタット」薬局販売のメドが立たず

拡大
縮小

オルリスタットが肥満を解消するメカニズムは、意外とシンプルだ。

ふつう、人間が食べ物から摂ったアブラ(油・脂)は、小腸から分泌されるリパーゼという脂肪分解酵素によって分解されて、体内に吸収される。

ところが、オルリスタットはこのリパーゼの分泌を抑えるため、アブラが分解されない。結果的に吸収が抑えられて、そのまま体外に排出される。まさに、“食べたことをなかったことにする”メカニズムを持つ薬といえるだろう。

大正製薬のホームページによると、オルリスタットの効能・効果は「腹部が太めな人(男性が腹囲85センチ以上、女性が90センチ以上)の、内臓脂肪および腹囲の減少」で、決められた量(1カプセル・60ミリグラム)を1日3回、食事中または食後1時間以内に水かぬるま湯で服用する。

また薬の服用に加えて、食事・運動の改善を行うことを推奨している。

わかっている主な副作用は下痢と油性の軟便。摂取したアブラがそのまま便になって出るというイメージだ。

実は、筆者は過去に1回だけこの薬を試したことがある(服用したのは同じ系列のゼニカル)。そのときのことはよく覚えている。このときはあえて脂っぽい料理を摂ったということもあるが、用を済ませてトイレの水を見ると、表面にギラギラとアブラが浮いていて、ギョッとした。

このほかの注意点として、宮田医師は、「服用することでβカロテンやビタミンDなど脂溶性ビタミンの吸収が抑えられる問題がある」と指摘する。服用する際は、マルチビタミンなどの併用が必要になるとのことだ。

オルリスタットが認められたのはなぜか

先ほどオルリスタリットは100カ国以上の国で使われていると紹介したが、日本ではこれまで承認されてこなかった。

2013年に武田薬品がオルリスタットと同系列のセチリスタット(オブリーン)を発売しようとしたが、結局、臨床試験で体重変化率が少なかったなどの理由で、保険適用に向けた承認手続きを断念したという経緯がある。

なぜ今回、オルリスタットが認められたのか。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会 (要指導・一般用医薬品部会)の内容が明らかでないため推測の域を出ないが、かつて厚労省医政局、医薬局などに所属していた宮田医師はこう話す。

「実際のところ、臨床試験の結果で有効性・安全性のちゃんとしたデータが出ているわけです。一定の基準を満たしているので、それ(大正製薬の申請)を承認しないのは、行政として難しいということだと思います」

次ページセルフメディケーションの広がりも背景に
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT