ラクスルの強みは「ポーター戦略論からの脱却」だ トレードオフを追求する人は現場を知らない

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もちろん、アーキテクチャーというレベルでいえば、デュアル優位性を追求しているといっても、差別化戦略、コストリーダーシップ戦略のどちらかにカテゴライズされるでしょう。ラクスルの場合は、おそらくコストリーダーシップ戦略になるでしょう。

しかし、そのような分類は単なるペダンティックな遊びにすぎず、実務的には意味のないものです。コストリーダーシップ戦略だとしても、そのなかでいかにコストを下げつつWTPを高め顧客満足度を高めることができるかに注力しなければ競争に打ち勝つことはできません。

同じ戦略をとる競合との「違い」を打ち出す

ポーター教授は、戦略の本質は「違い」にあると指摘しています。コスト削減だけに注力すれば、同じ戦略をとる競合との違いを打ち出すことは難しくなります。しかし、ラクスルのようにコストを削減しつつもWTPを同時に高めることができれば、それは本当の「違い」になるのです。

競争戦略は、そろそろ差別化戦略、コストリーダーシップ戦略というアーキテクチャーレベルで議論することから脱却すべきです。そうではなく、そのいずれをとるにしても、ポイントとなるのは、WTPとWTSに同時に働きかけるデュアル優位性を実現していくことです。

そのためには、企業のなかにおける多様なメカニズムを詳細に把握し、そのうえでいかにすれば顧客のWTPを高め、同時にサプライヤーのWTSを低くしていくことができるのかについて、知恵を絞っていくことが求められます。

競争の次元は、この智慧をいかに抽出するかというところにすでに移行しているといえます。重要なのは、トレードオフ思考から脱却し、トレードオンという観点からデュアル優位性を実現していくことです。そのためには、WTP、WTSという観点から企業活動を洗い直し、そこに見られる両者のメカニズム、つながりを詳細に検討していくことです。このような作業を通じて初めて有効な戦略は実現されるのです。

戦略とは決して現場を知らないエリートが策定し、トップダウンで実現していくものではありません。現場におけるWTP、WTSのつながりを明確に理解し、デュアル優位性を実現していくこと、これこそが本当の意味の戦略なのです。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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