ラクスルの強みは「ポーター戦略論からの脱却」だ トレードオフを追求する人は現場を知らない

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ラクスル
ポジティブサムを実現するラクスルの戦略とは?(画像提供:ラクスル)
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のMBAプログラムで学ぶ「バリューベース戦略」は、戦略への主要なアプローチとして、世界中で活躍するHBSの卒業生が、企業のパフォーマンスを向上させるために採用している。
この戦略コースのメソッドを公開した書籍の日本語版『「価値」こそがすべて! 』は、発売早々からネットを中心に話題になり、版を重ねている。
同書を翻訳した神戸大学の原田勉教授が、同書に取り上げられているラクスルのケースをもとに、これまでの戦略論ではトレードオフの関係にある、顧客とサプライヤーのベネフィットを同時に獲得し、自社のパフォーマンスを高める戦略について解説する。

ラクスルにみる三方よしのビジネスモデル

ラクスルという会社をご存じでしょうか。従業員300名程度の小さな会社ですが、そのビジネスモデルはユニークです。事業内容を知らない人も、テレビCMで社名を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。

『「価値」こそがすべて!』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

ラクスルは、日本全国に2万5000社ある印刷会社のなかから、顧客が価格を比較できるようにしたプラットフォームです。しかし、それだけならほかにも似たようなサービスはあります。ラクスルの独自性は、顧客の注文を、その仕事に必要な種類の印刷機の遊休設備を持つサプライヤーに厳選して送信するというマッチングサービスにあります。

というのは、印刷機に余裕があり、設備が整っているところは、価格が少々低くても喜んで受注するからです。逆に、稼働率が高いときには追加受注する余裕はなく、それでも依頼する場合には価格は上昇することになるでしょう。

したがって、遊休設備を持つ印刷業者と顧客のマッチングは、印刷業者にとっては稼働率を上げ固定費をカバーすることができる一方、顧客にとっては安価で発注することができるメリットがあります。当然、この仲介をすることでラクスルも収益を上げることができます。いわば近江商人の「三方よし」のビジネスモデルになっているわけです。

ラクスルはこの効率的なマッチングサービスを構築しただけではなく、さらに、トヨタの元技術者を採用し、登録している印刷業者の現場オペレーションを改善するというサービスも提供しました。それにより、コスト削減を可能にし、さらに低価格で受注することができるようにしていったのです。

次ページ「三方よし」のビジネスモデルを競争戦略の観点から解釈
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