ラクスルの強みは「ポーター戦略論からの脱却」だ トレードオフを追求する人は現場を知らない

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このような「三方よし」、すなわち顧客、サプライヤーを含めたステークホルダー全員が何らかのベネフィットを獲得することができることが戦略のポイントとなります。

これはゼロサムゲームではなく、ポジティブサムゲームです。ゼロサムゲームだと、企業が販売価格を上げたり、購入価格を引き下げることで利益を増やせば、顧客やサプライヤーはその分、ベネフィット、利益を減らすことになります。つまり、一方が利益を上げれば、他方は損するのがゼロサムゲームです。

一方、ポジティブサムゲームでは、お互いに利益を獲得することができる状況を指します。ラクスルのビジネスモデルは、このポジティブサムを実現できているところにユニークさがあるのです。

デュアル優位性の追求

このポジティブサムゲーム、「三方よし」のビジネスモデルを競争戦略の観点から解釈すると、WTP(支払意思額)、WTS(売却意思額)を同時に好転させていくことになります。

WTPとは、ある製品サービスを顧客が購入してもよいと考える上限価格を指します。WTSは、サプライヤー(企業の従業員を含む)が企業に原材料・部品・サービスを提供してもよいと考える最低限の報酬のことです。WTPと価格の差が顧客満足度(顧客歓喜)であり、報酬とWTSの差がサプライヤー利益となります。企業の利益は、価格と報酬との差に該当します。

(出所:『「価値」こそがすべて!』)

ラクスルの場合、遊休施設を利用するということで、サプライヤーである印刷業者のWTSを引き下げました。さらに、オペレーション改善の支援をすることで、そのWTSをさらに削減することに成功しています。これによって印刷業者はより安価な報酬で受注することが可能になっているのです。

顧客にとっては、価格が下がることは顧客満足度を高めることにつながります。しかし、それだけではなく、遊休設備を活用することで、迅速かつ高品質なサービスが期待できるため、WTPは同時に上昇します。フル稼働の状態であれば、納期は遅くなりますし、場合によっては品質が悪くなる可能性もあります。時間的に余裕があるからこそ、高品質なサービス提供が可能になるのです。

つまり、ラクスルのビジネスモデルは、WTPを高めると同時に、WTSを引き下げることを可能にしています。企業の価値創造とは、WTPとWTSの差のことです。この差を拡大するのに、WTPとWTSの両者に同時に働きかけているという意味で、ラクスルはデュアル優位性を追求しているといえるのです。

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