「家事は知的労働に劣る」という発想の大問題 料理を「毎日」作ることの大変さは語りきれない

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家庭内労働の可視化とか地位を上げる手段いろいろあると思うんですけど。当社としては、まずは外注できるサービスを用意するということをやりたい。外注するとこれくらい費用がかかるんだよ、こんなに大変なんだよと、見えない労働を可視化させたいと思っています。

料理というのは、作るだけではなく、それに付随する「脳内タスク」があって、それもまともに楽にするからこの価格なんだと。その労働に対して価値を認めること、不可視化されていた労働を可視化して、サービスとして提供することが重要だと思っています。

料理を「毎日作る」ということの大変さ

阿古:献立を考えなくて済むというのは大きいですよね。ミールキットもそうですが、そういうサービスを利用してみなさんはじめて献立を考えることの負担に気がつく。毎日料理をするとなると、予算を組まないといけないので、そんな高いものは普段は買えない。こっちの肉のほうがおいしいけど、今日はちょっとこっちの安いほうにしておこうか、とか。これ買うと、あの食材が使いきれないみたいな問題もある。

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前島:冷蔵庫の中身を把握しながらやらなきゃいけない。

阿古:日々の天気や寒暖差もあるし、例えば家族の誰かが体調不良だと言ったら、ガツンと肉というわけにいかない。そういういろいろな要素を合わせて買い物をし、献立をたてるにも7つぐらいの要素があるということをちゃんと言わないと、料理作ってるだけじゃない?ってことになってしまう。だからたまに料理するという人は、そういう日々のローテーションだということをまったくわかっていないですよね。

前島:確かに点でやるのと線でやるのと、あと複数人分やるのとまったく違いますよね。私もこの事業を始めて、だんだんそこの解像度が上がっていった部分があります。つねに一定のおいしさがあって、お子さんも食べてくれて、原価も一定で、労力も一定で、仕入れ、その季節にその材料を仕入れることができるというのを、複数条件を同時に、しかも数年間満たし続けるって、ものすごい難しい。

それでわれわれはどうやっているかというと、もうデータとスペシャリストを総動員してやっているわけです。エンジニアとデータサイエンティストと、ハードエンジニアと調理人と管理栄養士みたいなメンバーが、知恵を総動員してやっと今成り立っているんです。

それを女性は、家庭内で1人でやっている。家族の場合、対象の人数は少なくなるものの、難易度的には変わらないと思うんです。複数の要素を最適化しながら、しかも何年もやり続けるということの大変さがもっと一般的な認識として広がってほしいな、と思います。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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前島 恵 Antway社長兼CEO

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まえじま けい / Kei Maejima

2015年3月 早稲田大学人間科学部卒業後、東京大学大学院修了(学際情報学修士)。
研究者を目指して大学院に進学したが、社会問題を高速かつ広範に解決できるビジネスの力に魅了され、キャリアチェンジ。2015年4月、リクルートホールディングス(現:リクルート)に入社。新規サービスのFE/BEエンジニアを経て、保険系新規サービスの開発統括、美容系予約サービスの開発統括に従事。2018年4月よりビジネスサイドに異動し、新規事業立ち上げに従事。2018年12月 リクルートを退社し、Antwayを創業。

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