ウクライナへの戦闘機供与は慈善ではなく投資 外務省報道官が現地で語る「生存をかけた戦い」

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――ロシア、ウクライナはなぜかくまで違うのか。

中国と日本が違うのと同じだ。ウクライナ人の中には中国語と日本語が違うとは思っておらず、同じアジア地域で同じ言葉を話していると思っている人もいる。

ウクライナとロシアが一緒の民族(ネーション)だったことは一度もない。それぞれ独自の歴史的発展と伝統を持っている。ウクライナが国家だったとき、ロシアは存在しなかった。われわれの歴史ルーツはロシアではなく、西欧、バルト、スカンジナビア諸国だ。

ソ連が生まれたとき、大きなプロパガンダ機構が、「われわれは同じネーションだ。ソ連、ロシアが強力になるまでは、ウクライナには歴史はなかった」などと宣伝した。まったく間違っている。われわれはロシアとまったく違った独自の歴史を持っている。民主主義、人権、発展、教育は、ロシアが国家として存在するずっと前から始まっていた。

――ポーランドとの間の(第2次世界大戦中のウクライナ民族主義組織によるポーランド人やユダヤ人殺戮などの)​歴史問題をどう考えるか。

歴史問題は歴史家に委ねると常に言っている。ポーランドとウクライナ政府は共通の未来を見ている。ポーランドは声を上げて、EU加盟、戦争継続でウクライナを支援している。

多くの国の間で歴史問題は重要だが、わが国とポーランドとの間では、政治家ではなく歴史家に委ねることで合意がある。真摯に取り組めば前進することができる。

日本に求めること

――日本への期待は何か。兵器支援は日本にとっては難しい。

日本の貢献は制裁、財政支援で重要な効果を発揮している。先進7カ国(G7)首脳会議議長国としての役割を果たし、ウクライナ支援のための重要な決定をすることを期待する。

もちろん重要なパートナーとしてもっと支援してくれることを期待するが、他国を指図するわけにはいかない。それぞれの国次第だ。ただ、日本は重要な仲間であり、別の方法で支援を期待する。

(日本の兵器支援に関しては)それぞれの国がそれぞれの支援を決定する。すべての支援が助けになる。G7での日本の指導力を期待するし、日本も指導力を見せることに意欲を見せている。

最後に筆者(インタビュアー)として若干のコメントを付け加えるならば、クリミア、ドンバス地方も含めた領土回復については、キーウで話を聞いた他の国際問題の研究者、評論家も同じ立場だった。加えて、現状で暫定的な停戦をしても、いずれロシアはまた攻撃してくる、ロシアに軍事的に勝利するしか道はないという。
また、あるキーウ市民が言っていた、「ここまで犠牲を払って戦争を行ってきたのだから、敗北することはすべてが無駄になってしまう」という発言も印象的だった。
いずれ外交交渉の段階が訪れるが、当面領土回復、戦争勝利を目指し戦うしかないというのが大方の考え方であり、国民の士気は依然として衰えていないという印象である。
報道官による少数民族保護の見通しに関しては、やや楽観的すぎるように思う。どこの国でもそうだが、民族主義の暴走を食い止めるのは難しいし、仮に領土を回復した場合、ロシア系住民の問題は長く尾を引くだろう。
隣国との歴史認識問題を歴史家に委ねる、というのは正しいが、周辺国とのこの手の問題に長年悩まされてきた日本から見ると、これも楽観的な見方のように思われる。
戦時の緊張がゆるんだとき、ウクライナ国内の自由や民主主義の定着度、汚職問題への対処も改めて問われるだろう。
三好 範英 ジャーナリスト

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みよし・のりひで / Norihide Miyoshi

みよし・のりひで●1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』など。

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