予想されるウクライナ軍による大規模反攻作戦開始を前に、20年間以上盤石だったプーチン氏の権力ピラミッドが内部から大きく揺らぎだした。戦争での苦境を背景にプーチン氏の戦略に疑問を呈する動きが大統領周辺で公然と出始めたのだ。クレムリンの深奥部では何が起きているのか。
今、モスクワで大きな衝撃を与え、波紋を広げているのは2023年5月24日に飛び出した「プリゴジン会見」だ。民間軍事会社ワグネルの指導者で、「プーチンのシェフ」とも呼ばれていた子飼いのエフゲニー・プリゴジン氏がネットで公開した自らの発言だ。
プリゴジン氏の「政治綱領的発言」
プリゴジン氏にとって初の「政治綱領的発言」とも周囲から評された1時間に及ぶ詳細な発言での肝は、プーチン氏の現状の戦略ではウクライナに勝てそうもないという見方を公然と披露したことだ。
プリゴジン氏は戦争の今後の展開について、「楽観的と悲観的なシナリオがある」と前置きしたうえで「前者をほとんど信じていない」とバッサリ。悲観的シナリオとして、ウクライナが2014年のクリミア併合前の領土を回復することは容易に可能だと述べた。能力的にもウクライナ軍を事実上、ロシア軍より評価して見せた。
そのうえで、プリゴジン氏は、プーチン政権に対し、敗北を回避するためには「戒厳令体制」を導入して、「国境を閉鎖」して「北朝鮮的な」体制に移行すべきと主張した。その際、恐ろしく下品な罵り言葉で、ロシアが危機にあると感情的に訴えた。これは、そういう状態をもたらしたプーチン氏を暗に酷評したものと受け止められている。
プリゴジン氏は会見の中で、宿敵であるショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を名指して批判する一方で、それでも「自分はプーチン氏の言うことは聞く」と強調した。しかし実際には、大統領を公然と貶したとの見方が一般的だ。
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