その場合、支持基盤の1つになるのは軍部だろう。現在ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長と激しく対立するプリゴジン氏だが、実は一部の軍上層部とは非常に近い関係にある。
これを象徴する出来事が2023年5月初めにあった。4月末に国防次官の座から解任されたばかりのミハイル・ミジンツェフ大将が5月初め、プリゴジン氏からの招請を受けて、ワグネルの副隊長に就任した。これは、プリゴジン氏が今後の自身の勢力拡大に向け、将軍団の取り込みを図る動きと筆者はみる。
軍上層部には他にも、プリゴジン人脈に連なる高官がいる。ゲラシモフ氏の下で現在侵攻作戦の副司令官を務めるスロビキン氏だ。同氏は以前シリアでプリゴジン氏と協力関係を築き、2人は「シリア・コネクション」と呼ばれている。
ロシア軍上層部にプーチン氏への不満
先述したプリゴジン氏によるプーチン氏への侮蔑ともとれる一連の発言の背景に、軍上層部の不満があるとの見方が根強いのもこのためだ。ロシアの軍事専門家ユーリー・フョードロフ氏もそうみる1人だ。
「大統領の能力に公然と疑問を呈することがなぜ起こったのか。なぜそんな発言が許されるのか。それは軍上層部の一部にそう言えと求める声があるからだ。展望もなく、長引く戦争に軍の不満は高まっている。軍の雰囲気を反映した発言だ」と分析する。
プリゴジン氏の背後には軍情報機関の存在もちらついている。その機関とは、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)だ。もともと国防省の事実上の下請け会社の形で発足したワグネルだが、発足に際し中心的役割を果たしたのがGRUといわれている。プーチン氏はGRUと対抗関係にある連邦保安局(FSB)の前身であるソ連時代の国家保安委員会(KGB)のスパイ出身だ。
プリゴジン氏によるプーチン批判開始の「源流」をたどると、それは政権にとって軍部の不満より、もっと深刻なものだ。クレムリン最上層部での路線対立だからだ。
侵攻でのロシア軍の兵力不足を受け、事実上の政権ナンバー2であるニコライ・パトルシェフ安保会議書記は大統領に国民総動員体制の発令を提案したが、プーチン氏は「必要ない」と一蹴したといわれる。
対米欧最強硬派と目されるパトルシェフ氏は、ロシア最大の国営石油会社ロスネフチ社会長であるイーゴリ・セチン氏とともにプーチン氏の戦争戦略が生ぬるいと不満を強めているといわれる。
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