もちろん、2022年のG20、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ASEAN関連会議の議長国であったインドネシア、タイ、カンボジアは会議開催を成功裏に収めており、ASEAN弱体化は不可逆的ではない。しかし、この状態が長期化すれば、ASEANの国際的役割が縮小することにもつながる。
それでは、東南アジア地域を長らく支援してきた日本は一体何ができるであろうか。
まず指摘すべきことは、ASEANが形づくってきた地域制度は、戦略的に競合関係である大国同士に対話を促し、紛争予防に貢献してきたという事実である。たとえそれが不完全なものであったとしても、ASEANは唯一無二の地域公共財を提供してきている。
この地域公共財が失われれば、アジア地域は米中二項対立に陥りやすくなる。先月、日本主催のG7はグローバルサウス諸国も招き入れ、外交的に大きな成功を収めた。しかしそこには中国やロシアは含まれておらず、中ロ両国に「G7には排他の論理が働いている」といった弁明の余地を与えてしまう。そういった隙を与えないのがASEANであるのだ。
包摂的な地域秩序構築へ向けて
目標とすべきは、ASEAN中心性・一体性が損なわれないよう、東南アジア諸国が目指す地域の安定と繁栄の「方法論」と、日本の目指す国際秩序の「ビジョン」との親和性を高めて協力関係を構築していくことであろう。
具体的には、①ASEAN各国のニーズに合わせ能力構築支援・開発支援を行うことによって特定国への過度な経済依存を減らし、ASEAN一体性を維持できる能力向上に貢献すること、②ASEAN中心性を脅かしかねないクアッド等の制度的役割分担の明確化と協力関係の構築を進めること、そして③継続的な関与を通して地域秩序の構築を共に進めることが重要であろう。
アジア地域あるいはインド太平洋地域における国際秩序構築を考える上で、東南アジア、特にASEANへの関与は欠かせない。日本は、その秩序構築の一環として、ASEANを通した包摂的な対話プロセスをより積極的に促進することが求められている。
(古賀慶 南洋理工大学社会科学部公共政策・国際関係学科 准教授)
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