国際・地域秩序の構築におけるASEANの重要性 インド太平洋地域の安定に日本ができること

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東南アジア諸国は、このような中国の東南アジア政策に対し、過度な中国依存を避けようと「ヘッジ戦略」を追求している。端的に言えば、中国の成長に伴う経済的恩恵を最大限に享受しつつ、軍事的・経済的に支配されないよう、アメリカや日本を含める地域大国との関係性を強化しているのだ。

ただ、東南アジア諸国は近年の中国の攻撃的な外交姿勢を警戒しつつある。シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所による2023年エキスパート・エリート調査によると、東南アジア諸国は中国を地域において最大の経済的・戦略的大国として捉えている一方、過半数が中国を「信頼できない」とも回答している。

とはいえ、このような評価がすぐさまアメリカや欧米諸国への支持につながるわけでもない。ブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシアといった中国との経済的に強いつながりを持つ国々は、中国に対する警戒心が比較的低く、極端に距離をとることは望んでいない。

東南アジア諸国はこのように一枚岩ではない。それでも大国との距離を置き、ASEAN中心性や一体性を主張するのは、地域の自主性を確保しつつ「健全な大国間競争」が可能な環境づくりを目標としているためと考えられている。

東南アジアの理想は米中競い合いによる恩恵

東南アジア諸国にとっての理想は、米中両国がいかに東南アジア地域のニーズに合った地域公共財を提供できるかという点で競い合うことによって恩恵を受けることである。しかしここには、米中戦略的競争は基本的に安定が保たれており、東南アジアが衝突の現場にならない、ということも含まれる。

つまり、東南アジア諸国は国際秩序構築に向けた自らの「ビジョン」を提示するよりも、地域の安定と繁栄を促す「方法論」に重点を置く。そしてそのような大国間関係を形づける上で、ヘッジ戦略やASEAN中心性・一体性は必要不可欠となる。

しかし近年、そのASEAN中心性・一体性を維持することが困難となる課題にASEANは直面している。例えば、2021年に起こったミャンマー軍部によるクーデターによって、ミャンマーはASEANの会合に出席できておらず、他方で中国・ロシアが「内政不干渉」を掲げミャンマー軍に関与政策を進めている結果、ASEAN一体性が弱体化している。

また、ロシアのウクライナ侵攻によって欧米諸国が明確な対立姿勢を示し、2022年7月の拡大ASEAN国防大臣会合の専門家会合を米豪諸国がボイコットした。これは、今後の状況次第ではASEANの「主宰力」が問われるとともに、ASEAN中心性が揺らぎかねないことを示唆している。

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