関東地方にあるターミナル駅からタクシーで15分ほど走るとやや古びた住宅街に入った。30年ほど前までは若い家族で溢れていたはずだが、今は高齢者の一人住まいや空き家も目立つような一角だ。
今日の取材先は、2年前に結婚してこの町で司法書士事務所を開設した夫妻である。事務所兼自宅として使っている一軒家の玄関や応接室には時代物の人形や家具が置かれている。
「一人暮らしのお年寄りが亡くなった家を遺族からお借りしました。私たちが使えるものはそのまま使わせてもらっています」
出会いは司法書士業界ではなく…
こだわりのない様子で朗らかに話すのは藤山健一さん(仮名、48歳)。がっしりした体型に精悍な顔立ち。若い頃は柔道教室で指南役を務めていたという。確かに道着が似合いそうだ。皮張りのソファで健一さんの隣に座っているのは妻の奈津美さん(仮名、45歳)。同じく司法書士であり、業界歴は健一さんよりも10年近く長い。
社交的な健一さんが営業などを担当し、経験豊富な奈津美さんが書類作成などをこなしているという。他に、事務仕事のアルバイト2名と、「掃除や庭仕事を何でもやってくれるおじいちゃん」を1名雇っている。相続や成年後見人など、高齢化社会を反映した依頼が増え続けており、事務所は順調に発展しているようだ。
一緒に独立開業するために結婚したような組み合わせだが、出会いは司法書士業界ではない。この町の商工会議所がオンライン婚活イベントを開催し、2人はその参加者だった。
健一さんは2018年の司法書士試験合格とほぼ同時に開業しており、奈津美さんのほうは国家公務員として司法書士の資格を生かして働いていた。ただし、奈津美さんはイベント主催者にプロフィールを提出せず、資格も年齢も非開示での参加だった。資格はともかく年齢まで隠したのはなぜか。
「隠すつもりはなかったのですが、仕事が忙しくてプロフィールを書くまで手が回りませんでした……」
見た目も雰囲気も30代半ばぐらいに見える奈津美さん。若々しいというか、少女の面影を残したような女性だ。九州出身で、夏は蛍が飛び交うような自然豊かな土地で育った。
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