引きこもり30歳がルーマニア小説家になった胸中 「千葉からほとんど出たことがない」のになぜ?

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何もする気が起きず、時間だけが無残に過ぎ去っていく日々は、生きる希望を失わせた。そんな永遠にも思える苦しみを一瞬でも忘れさせてくれたのが、映画だった。

タブレットから繰り出される、日常ではあり得ない光景や展開。唯一、映画を観ているときだけは気持ちが安らいだ。

一方で、流れる映像を受け身のまま観ているだけでは満たされない思いもあった。「自分は家にいるばかりで何も成し遂げていない」という焦りが襲ってくるのだ。

「引きこもりの俺だって、何かをやっている」──。親や周囲へのアピールのためにも何かをせねばと、もがきの中で始めたのが、Twitterやブログへの映画批評の投稿だった。そこから少しずつ投稿に共鳴する読者や仲間が増え、世界が広がった。

「Twitterでのつながりが生きる支えになりました。その中の1人が飲みに連れて行ってくれて、俺にこう言ってくれたんです。『今、君が書いている映画批評のブログは今後君にとって“名刺”になっていくはずだから、ちゃんと本気出して書きなよ」って。胸に刺さりましたね」

その言葉でさらに火がつき、好奇心のまま片っ端から映画を観ては批評をつづった。中でも心魅かれたのは、「日本未公開映画」だった。

ほとんどの日本人が知らない、未開拓の映画にハマる。「それは『周りと違う自分って、クールでカッケェ』という思春期のような自意識からだった」と鉄腸さん。そうしたある種のナルシシズムが、極めてマニアックなルーマニア映画への扉を開かせた。

SNSで4000人ものルーマニア人に友達申請

ある1本のルーマニア映画に衝撃を受け、ルーマニア語そのものへの探求心が湧き上がった。勢い、ルーマニア語を学び始めたが、日本にはテキストが数えるほどしかなかった。

ネットフリックスで映画に「ルーマニア語の字幕」を付け、辞書を引きながら言葉を覚えることもしてみたが、それだけでは現地の人たちが使う日常会話が身に付かないと思った。

そこで大胆にも、Facebookでルーマニア人の友達をつくろうと行動を起こした。

「ルーマニアはヨーロッパの中でも貧しい国の1つと言われていて、国外に出稼ぎに行っている人が多いんです。国外に散らばるルーマニア人同士がつながる手段として、多く使われているのがFacebookだと知って、『これだ!』と思いました」

まずは日本文化に興味があるルーマニア人のコミュニティーに登録して、次々と友達申請した。

「結構すんなり承認してくれるもので、数珠つなぎにどんどん交友が広がっていった」という。最終的に4000人もの人に友達申請を送ったというから驚きだ。

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