引きこもり30歳がルーマニア小説家になった胸中 「千葉からほとんど出たことがない」のになぜ?

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一度も海外に行かずして、国外で活躍する鉄腸さんだが、今後日本を出る日は来るのだろうか。

「行きたいですよね、海外。実はルーマニアで小説家デビューした後に、腸の難病である『クローン病』にかかってしまったんです。食事も外出も制限されるのでもう海外に行くのは無理なんだろうなと半ばあきらめていました。でも、今は寛解して症状が落ち着いたので、住むのは難しいとしても、いつかは旅をしたいです」

30歳でようやく人生のスタートラインに立てた

2年前、クローン病を患った当初は、病気をなかなか受け入れられずつらかった時期もあったそう。

済東鉄腸さんの読書ノート。1日2~3冊は読むという(編集部撮影)

だが、その苦しみを乗り越えるためにnoteに書いた闘病記がきっかけで、エッセイ本の声がかかったのだと胸を張る。

「ある意味、クローン病がつなげてくれた縁なんです。どうせなら、どんな境遇も運命も、すべて自分の人生に生かそうと思っています。鉄腸というペンネームも、クローン病になる前に付けた名前なので、ホントたまたまなんですよ! 奇遇すぎて、俺ってやっぱり引きが強いなと思っちゃいました」

『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(左右社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

うつ、引きこもり、クローン病の発症……。一見すると、もう八方ふさがりにしか思えない状況下で、その場所でしか、その自分でしかできないことをひたすらにやり続けた。

そんな唯一無二の道のりを支えてきたのは、「ただただこれがやりたい」という情熱と、「周りと違う自分って、カッケェ」という少しの自意識だ。

「それがいったい、何の役に立つのか?」「それで食っていけるのか?」と一瞬でも考えたら、決してできない歩み方でもある。

「自分の人生が今やっと、マイナスから0地点にたどり着いた気がするんです。ここからプラスへの道が始まる。30歳にして、ようやくスタートラインに立つことができました」

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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