引きこもり30歳がルーマニア小説家になった胸中 「千葉からほとんど出たことがない」のになぜ?
心が壊れ、大学卒業後から引きこもりに
本や映画批評のブログからほとばしる、強烈なルーマニア愛。「俺は──」でつづられる、己の奥底をむき出しにした、たけだけしい文体。済東鉄腸というペンネームからして、ただならぬものを感じ、筆者も珍しく取材前夜から緊張していた。
撮影現場で対面すると、彼は自分の胸にそっと手を当て、会釈をした。
「はじめまして。ルーマニア馬鹿の済東鉄腸と申します。今日はよろしくお願いします!」
親しみと礼をつくした挨拶に、一瞬で心をつかまれてしまった。
思わず「鉄腸さんと呼んでいいですか?」と尋ねると、「うれしいです。そう呼んでくれて」とほほ笑み返した。
子どもの頃は、内向的すぎて人と話せなかったという鉄腸さん。家族で外食に行っても、店員にオーダーできず、毎回親に代わりに伝えてもらうほど。
それでも「友達だけはつくらなければ」と奮起したこともあったが、今度は自分の思いばかり一方的に話してしまい、会話のキャッチボールができなかった。
「コミュニケーションが0か100かになってしまって、人とうまく話せなかったんです」
大学時代もつまずきの連続だった。受験に失敗し、ようやく入った大学のサークルで失恋。心を閉ざし、ますます人と交流しなくなった。なんとか卒業だけはしようと通学し、就活にも挑んでみたが、面接でほとんど話せず、惨敗。
とうとう4年生の終わりに力尽きた。うつ状態になり、卒業後の2015年から実家の子ども部屋に引きこもるようになった。
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