商業高校に通ったダウン症の少年に起きた「変化」 障害がある子との学びでクラス全体が好影響も

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調査研究の結果、知的障害のある生徒だけでなく、同級生や指導教員にもよい影響をもたらしていた。重度の知的障害のある生徒に関する記録には「多くの生徒が集まり、多くの個性に絶えず触れていたことから、(本人の)忍耐力や持続力が向上し、自立心が高まり、表現力が豊かになるなどの影響を受けている」と記載された。

周囲の生徒については、「小中学校で障害のある生徒とともに過ごしてきた者も多いことから、知的障害のある生徒が高等学校でともに学んでいることに理解を示し、1人の級友として自然に接している」と書かれていた。障害のある生徒とともにサークルに参加した人のなかには、卒業後、支援者として母校を支える人も出たそうだ。

教職員についても「インクルージョンの理念を体験的に学んでいる」「生徒1人ひとりに応じた指導を行うことが教職員の生徒指導力の向上につながり、生徒への理解の幅も広がるという効果を生んでいる」とあった。

その後、府立高校では指定校制の「知的障がい生徒自立支援コース(通常の高校で週5日学ぶ)」、および「共生推進教室(高等支援学校に籍を置く。授業は週4日通常高校で、週1日高等支援学校で受ける)」も設置している。

さらに、指定校以外でも、知的障害のある生徒を受け入れている。昨年もダウン症の生徒が全日制の公立高校に定員割れで合格した。知的障害自立支援コースを検討していたが、倍率が高かったので志望を変更したという。

高校入試での合理的配慮も

文部科学省では、1993年に法律の施行規則を改正し、公立高校入学者選抜(以下、公立高校入試)の方法(2次募集、3次募集などの受験機会の増回、推薦入学の活用など)、選抜における合否判定の考え方(調査書に比重を置かない、試験の教科数の増減や教科ごとに配点の比重を変えるなど)に柔軟性をもたせた。

さらに、2007年には、障害のある人に対する公立高校入試での合理的配慮についても、全国に通知が発出された。別室での受験、試験時間の延長、受験時介助員同席などが認められている。

健心さんも、高校入試では試験の介助者同席を希望し、許可された。ダウン症の人の場合、不慣れな場所、初めて会う人には過剰な不安で緊張し、何もできなくなってしまうことがある。両親は介助者に適さないため、中学時代の塾の教員に依頼して、受験当日は離れた席に座ってもらった。

介助者は検査中、一言も発することができないが、5教科の試験時間の間、見守ることで、健心さんは安心して試験を受けられたという。マークシートを塗りつぶす練習を積んでいたこともあり、志望校には定員割れで合格した。

平成28年(2016年)の障害者差別解消法の施行により、点字や問題の拡大、音声読み上げ機能やタブレット端末などのICT機器の使用も可能になった。昨年末には「高等学校入学者選抜における受検上の配慮に関する参考資料」で、障害種別により具体的な入試対応の実例を紹介する冊子も公開された。

全国の教育委員会でも、「どんな合理的配慮が必要か」 を判断し、中学校や高校、本人・保護者と連携して合意形成するため、必要があれば中学校生活も見学しながら入試の機会を確保する。

入試の合理的配慮について(筆者作成)
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