商業高校に通ったダウン症の少年に起きた「変化」 障害がある子との学びでクラス全体が好影響も

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ハイキングで山を眺めながら、同級生と飯盒炊飯で作ったカレーを食べたことなど、思い出は尽きない(写真参照)。健心さんも「高校時代は、とても楽しかった」と言う。

高校1年生のオリエンテーションにて。健心さん(中央)が同級生と飯盒炊飯で作ったカレーを食べている(写真:商業高校の校長のブログより。学校に許可を得ている)

卒業後の今、母親の玉枝さん(59)はこう話す。

「授業では障害のない友人と同じ内容を教わりましたが、息子にとってそれがすぐ理解できなくても、学校で見聞きしたことが生活の中に現れることはありました。私たち夫婦は、社会に出たときに必要なことは、『周囲といかにうまくつながりを持てるか』と考えるなか、商業高校という大勢の同年代が集まる環境で過ごしたことは、息子の中で小さな変化やできることを増やしました」

通知表の評価欄には、教員から「気配りのできる温かな人柄が級友に伝わっていた」と記載されている。

「ともに学び」を目指す大阪府

大阪府は全国でも早い時期から、知的障害のある生徒を府立高校で受け入れてきた。地域によって濃淡はあるが、豊中市では1950年代から小中学校に特殊学級があり、実践を積み重ねていたと聞く。1980年代からは、府としても障害の有無や外国籍などにかかわらず、小中高校で「ともに学び、ともに育つ」を目指してきた。

2000年には、知的障害のある生徒を府立高校でどのように受け入れるかについて調査研究した報告(*2)が残っている。それまでの現場での実践を検証したともいえる。

その調査研究は、 有識者で構成される大阪府学校教育審議会(障害教育専門部会)で、5年間にわたって実施された。府立高校の普通科2校、総合学科2校、専門学科1校の5校が調査研究校として指定され、「重度の知的障害がある」「自閉的傾向がある」「多動性がある」「てんかん発作がある」「移動や食事で介助の必要がある」生徒を毎年1校につき2人ずつ受け入れた。

知的障害のある生徒1人ひとりの特性などを把握しながら「個別の指導計画」を作成し、授業ごとの指導内容やその結果を記録として残した。

初年度は各校で計画作成に時間がかかったが、時間を追うごとに理解が深まったという。授業は障害のない生徒と同じ教室で同じ内容を教えたが、教科の基礎的な内容は個別、あるいは2~3人のグループで指導した。評価は相対評価でなく、絶対評価を用いて単位を認定し、全員が卒業した。

学校の受け入れ体制では、コーディネーターの役割を担う教員1人のほか、個別授業を担当する非常勤講師、生徒の学校生活の支援を行う学習サポーターなどが府の予算で配置された。

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