だが、昨年度、千葉県や静岡県において試験の回答方法を記述式から選択肢へ変更する合理的配慮が認められなかった。静岡県内の市立高校を受験した生徒の場合は、介助者による試験問題の代読・解答の代筆、時間延長、別室受験は認められたが、全問選択肢による解答は「他の受験生との均衡を保てず、公平性確保の観点から難しい」と、市と県の教育委員会から回答されたそうだ。
自身も障害があるれいわ新選組の舩後靖彦参議院議員(65)は、こう訴える。
「障害のない受験生であれば、ある受験生は記述式で、ある受験生は選択肢で解答するとなった場合、当然、選択肢のほうが正答率は高くなり、公平とは言えません。しかし、障害によって自分で書くことができず、口頭で伝えることも困難な受験生の場合、たとえ試験時間が延長されても記述式では他の受験生と同じように解答できません。試験の土俵に乗ることすらできない、受験から排除されていることと同じです。合理的配慮を認めないことは、障害に基づく差別です」
受験機会が失われないように
東京都や愛知県では、試験問題の解答を記述式から選択肢へ変更することを認めている。愛知県教育委員会高等学校教育課進路指導グループの前田憲一課長補佐(48)は「入試においては、公平の観点から障害などのために受験機会が失われることがないよう、公正の観点から学力が適切に測れるように合理的配慮を行う必要があります。そのうえで、私どもでは中学校での受験生の日常での学びの様子を視察して、検討した結果、選択肢による解答を取り入れることは可能と判断しました」と話す。
しかし、教育委員会などの関係者が入念な準備を重ねても、高校入試の結果、「試験の点数が取れない」「面接でコミュニケーションが難しい」などの理由で、定員内不合格となることも少なくない。学校教育法では、最終的には高校の校長が入学の許可を判断することになっているからだ(定員内不合格については関連記事:「定員割れなのに不合格」全国公立高で延べ1631人をご覧ください)。
舩後議員はこう話す。
「『潜在能力がない人』に、私は出会ったことがありません。人の可能性は無限で、本人すら気づかずに環境や人間関係のなかで開花していくものと考えます。だからこそ、その可能性の芽を定員内不合格という形で摘み取ってはいけないと思うのです」
社会には「知的障害のある生徒は、高校時代は将来の就職の準備をしたほうがいい」と言う人もいる。そのほうが「就職におけるメリットが高い」とも言われる。
だが、公立高校の学習成果がすぐに学期テストの点数に反映されなくても、就職で不利であっても、本人の「学びたい」「大勢の友人の中で学校生活を送りたい」という意欲に、大人は応えるべきではないか。
※行政では、高校入試における学力検査については「受検」と表記しているが、本稿では読者の読みやすさを優先して固有名詞以外は「受験」で統一している。
*1 特別支援学校も公立高校だが、本稿ではいわゆる「普通学校」「通常学校」の表記を使わないで表現した。筆者は「普通」「通常」に違和感がある。
*2 大阪府学校教育審議会[2005]、「高等学校における知的障害のある生徒の受け入れ方策について 答申」(平成17年8月12日)
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