タイ総選挙が浮き彫りにした大麻・王室・タクシン 第1党・前進党の前進を拒むもの
タクシン氏は2008年、汚職防止法違反の罪で実刑判決を受けて指名手配され、国外逃亡は15年に及ぶ。これまでも繰り返し望郷の念を表明してきた。帰国すれば収監される身だが、帰国表明は実刑を務めあげるという意味ではないだろう。
タクシン氏は選挙後に「収監されても帰国する。その時はその時だ。長い海外逃亡は監獄にいるようなものだ」と語ったが、額面通りには受け取れない。何らかの形で自由の身となる道を探り続けているはずだ。
インラック政権時代の2013年、政府は恩赦法を提出したが、野党や反タクシン派が猛反発した。街頭デモなどが繰り返されて混乱が極まり、翌年のクーデターにつながった。
それから10年、今回の帰国宣言は、総選挙で圧勝のうえ、親軍政党と大連立を組むことで軍や王党派に根強いタクシン・アレルギーを抑え込み、恩赦の道を探る戦略だと一部で受け止められた。
さらなる壁となる「選管」「憲法裁」
帰国宣言はプアタイ支持者の引き締めや鼓舞にはつながったとしても、親軍政治の継続を拒否する有権者らの離反を招いた。ペートンタン効果を打ち消し、プアタイにとってはプラスマイナスでいえば、明らかにマイナスだった。タクシン氏はインラック政権時に犯したミスを繰り返したといえる。
恩赦の権限を持つのは国王だけだ。それ以外に収監を逃れる道のないタクシン氏は、王室改革に前向きな前進党と組んで国王を刺激したくはないであろう。タクシン氏の意向がプアタイの路線を決める。
親軍政党「国民国家の力党」の党首プラウィット氏は、タクシン政権下で陸軍司令官を務めていた。政治に永遠の友も敵もいないということであれば、前進党を袖にして親軍政党とよりを戻すことは十分にありうる。親軍政党との連立でなければ、恩赦を得ることは難しいとみられている。
一筋縄でいかない連立協議に加えて、前進党には選挙管理委員会や憲法裁判所といった、軍や王党派の影響力が強い国家機関が立ちはだかる。
国民国家の力党の比例区候補がすでに、ピタ党首がテレビ局の株を所有しながら総選挙に立候補したとして、失格とするよう選挙管理委員会に求めている。憲法では報道関係の株を持ったまま総選挙に立候補することはできないとされている。
ピタ氏は「株は自分のものではなく、父の遺産を管理する会社が所有している」と嫌疑を否定している。だが前回2019年の選挙では前進党の前身、「新未来党」が80議席を取ったものの、当時の党首タナトーン氏が、党に資金を貸し付けたのは憲法に違反すると訴えられ、憲法裁判所により解党、タナトーン氏は政治活動を禁じられた経緯がある。
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