タイ総選挙が浮き彫りにした大麻・王室・タクシン 第1党・前進党の前進を拒むもの

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
タイ総選挙で選挙活動を行うタイ前進党のピタ党首(車上中央、写真・ 2023 Bloomberg Finance LP)

タイで総選挙(下院選)後の政局が混沌としている。野党が大きく躍進し、第1党となった前進党のピタ党首が首相就任に意欲を見せているものの、政権に至る道筋は描き切れていない。

国民からノーを突き付けられた親軍政党を中心とした勢力が、政権の座に居座るシナリオも残されている。国民の負託に応える政権は誕生するのか。複雑な連立の方程式を解くキーワードは「大麻」「王室」「タクシン」である。

2023年5月14日に実施された総選挙(定数500)で、王室に対する不敬罪の改正や徴兵制の廃止などを公約に掲げるリベラル系の前進党が152議席を獲得、タクシン元首相系の野党タイ貢献党(プアタイ)が141議席で第2党となった。第3党は大麻解禁を公約とする与党タイ名誉党の70議席。9年前のクーデターでタクシン氏の妹インラック首相を追放して権力を奪取した国軍系の2政党は、計76議席と惨敗を喫した。

第1党の党首は事業で成功した若きエリート

前進党のピタ党首は42歳。アメリカ・ハーバード大学などに留学し、タイに戻ってフードビジネスを成功させた人物だ。ピタ党首は開票直後に「首相になる用意はできている」と宣言。タクシン氏の末娘で、プアタイを率いる36歳のペートンタン氏と連立協議に入った。

前進党と他の7党はすでに313議席を確保したとして、5月22日夜、政策協定に署名した。協定には憲法改正、徴兵制廃止、同性婚法制化、官僚機構・警察・軍・司法制度改革のほか、大麻の麻薬リストへの再掲載などを盛り込んだ。

それでも反親軍政権が誕生するかどうか、現時点では見通せない。最大の理由は、下院の500票に加え、軍が事実上指名した上院議員250人が首相選出の投票権を持つからだ。つまり、政権樹立には750票の過半数376票以上が必要となる。

野党側が政権を取るには、さらに60議席以上を確保しなければならない。与党のうち民主党(25議席)はピタ氏の首相就任に同意する意向を示しているが、それでも足りない。

打開の道は2つある。上院議員の相当数を寝返らせるか、名誉党を取り込むかだ。しかし軍の息のかかった上院議員を説得するのは容易ではない。他方、名誉党のアヌティン党首は5月17日、「王制を守る」として前進党との連立を否定する声明を出した。

不敬罪の改正など前進党の主張する改革に反対するという表向きの理由に加え、党の看板政策である大麻販売の規制を唱えている前進党を牽制する意図があるとみられる。

次ページ親軍・反軍寄りの政権どちらになっても政権は不安定
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事