"奇跡のフォント"開発者の逆境だらけの8年間 「嫌われてもいい。やりたいことは絶対やる」

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そんな状況で彼女を支えていたものこそが、「絶対にUDデジタル教科書体を世に出したい」という強い思いだ。

(写真:Woman type)

この子たちが学ぶための書体は、世の中にないんだ

UDデジタル教科書体の開発は、ロービジョンの子どもたちが文字の勉強をしている現場を見せていただいたことに始まります。

ロービジョンとは、視覚に障害があり、日常生活に困難や支障が生じている状態を指します。

その見え方はさまざまで、視力が著しく弱くぼんやりとしか形を捉えられない、視野の一部が欠けて見える、狭い範囲しか見えない、色の違いがわからないなど、抱えている課題は人それぞれ異なります。

当時、私は「TBUDフォント」を作っていました。TBは当時の勤務先であるタイプバンク社の略で、UDはユニバーサルデザインのことです。

電車の車内ディスプレー用のフォント開発の依頼を受けたことをきっかけに、お年寄りや弱視の方でも読みやすい書体として、TBUDフォントの開発を進めていたのです。

その中で、ロービジョン研究の第一人者・慶應義塾大学の中野泰志先生と出会いました。

中野先生からは「現場を見なさい」とアドバイスをいただき、実際に中野先生に同行し、ロービジョンの子どもたちを支援する現場に足を運ぶ中で、多くの苦労があることを目の当たりにします。

例えば、学校現場で使われていた文字は、先生たちが試行錯誤して作ったものでした。

ロービジョンの子どもたちにとっては線の太さが均一なゴシック体が比較的読みやすい書体なのですが、既存のゴシック体は文字の形や画数などが学習指導要領とは異なります。そのため、教育現場では使えない。

次ページ開発していたフォントは教育現場では使えない形だった
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