"奇跡のフォント"開発者の逆境だらけの8年間 「嫌われてもいい。やりたいことは絶対やる」
その課題を解決するために、先生たちは既存のゴシック体を1文字ずつ手書きで修正し、学習指導要領に沿った形に直していたのです。
「ロービジョンの子どもたちが学ぶための書体は、世の中にないんだ」
そう痛感し、「届けないと」と思ったんです。
より多くの人に読みやすい書体として当時開発していたTBUDフォントは、たしかに読みやすくはあるものの、学習指導要領とは形が異なるため、教育現場では使えない。
それなら、もっと手書きに近い形にして、太さを出して読みやすくすればいい。そう思って、ロービジョンの子どもたちにも学びやすい教科書体の開発をタイプバンクに提案しました。
2〜3年でできると思いきや、結果は8年かかった
提案自体はすんなり通りましたが、UDデジタル教科書体が世に出るまでに、結局は8年もの時間がかかりました。
通常の書体制作の場合、長くても2年程度で完成します。だから、UDデジタル教科書体も当初は2〜3年でできるだろうと思っていたんですよ。
教科書体を作ること自体が初めてだったので、基本的な要件を学ぶために各教科書メーカーのフォントを調べながら、「これは普段どおりにはいかないぞ」と途中で気付きました。
例えば、「中」という字の真ん中の縦線をスッと抜くか、まっすぐに止めるか。
現場の皆さんに意見を聞くと、見事にバラバラ。さらに教科書によっても違うんですよ。
細かくルール化するとなると、どこまでが現場に受け入れられるのか。決断する立場としては嫌になるでしょう?(笑)
正解があるわけではないし、私たちにロービジョンの見え方はわからないから、疑問点を1つひとつ確認しながら決めていくしかないわけです。
さらには一度、「木」の右はらいの形が違うのではという指摘が入り、「木」を含む文字や右はらいを含む文字など、膨大な数の文字デザインがやり直しになったこともありました。