高給だけど働きたくない「TSMC」の軍隊カルチャー 世界最強半導体会社を悩ませる超採用難

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台湾にとって、その意味は重い。軍事戦略家の中には、マイクロチップ供給でTSMCが支配的な立場を築いているからこそ台湾は中国の侵攻から守られている、と論じる向きがある。アメリカが台湾を守る必要があるという立場をとっているのはサプライチェーンにおける重要性ゆえ、という見方だ。

「ホワイトな外資系」に流れる人材

台湾の人材危機はTSMCの成功と絡み合っている。TSMCの従業員数は過去10年で約70%増加したが、その間に台湾の出生率は半減。人工知能(AI)のような将来有望な領域のスタートアップ企業がトップクラスのエンジニアを引きつける中、TSMCは人材採用でグーグルやオランダのASMLをはじめとする外資系企業とも競争しなければならない。採用競争におけるこうしたライバル企業は、概してワーク・ライフ・バランスがよく、無料で食事が提供されるなど給料以外の特典も手厚い。

TSMCの経営陣はハードなことで知られる同社の仕事文化を守ってきた。TSMCが7万3000人の従業員を擁する4400億ドル規模の巨大企業へと成長できたのは、ハードな働き方によるところが少なくない。

創業者のモリス・チャン(張忠謀)は最近、自身が当然のものとして期待する軍隊的な規律を擁護する発言を行っている。従業員が真夜中に会社から呼び出されても配偶者はまたすぐに眠れる、とチャンは言った。ただ、会長のマーク・リュウ(劉徳音)は近年、台湾の半導体業界が直面する最大の課題は人材不足だと繰り返し認めるようになっている。

実際、TSMCは採用戦略の修正を余儀なくされている。同社は採用経路を拡大したほか、修士課程修了者の基本給を平均年収ベースで最大6万5000ドルに引き上げた。台湾人大学院生の採用活動は9月と、通常の3月から大幅に前倒し。半導体の基礎を教えるオンラインクラスを通じ高校生段階からの人材開拓にも着手するようになっている。

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