高給だけど働きたくない「TSMC」の軍隊カルチャー 世界最強半導体会社を悩ませる超採用難
TSMCの元バイスプレジデントで、現在は国立清華大学半導体研究学院の院長を務めるバーン・リン(林本堅)によれば、「候補者探しに苦労している企業は多い」。
「企業は今、人材を探すとき、あまり選り好みしないようになっている。候補者は必ずしも電気工学やコンピューターサイエンスを修めている必要はない」とリンは言う。
リンがトップを務める学院は、リュウや半導体設計会社メディアテックの会長ツァイ・ミンカイ(蔡明介)など業界の大物の呼びかけに応える形で台湾政府が2021年に設立した4つの半導体専門大学院のひとつだ。
台湾の総統、蔡英文はリンが率いる半導体学院の開設式典で「半導体人材の育成は時間との戦いになっている」と述べた。
海外展開の裏に深刻な人手不足
台湾の半導体業界が直面する採用難は、世界的な半導体不足の中で生じた。黎明期にある自国の半導体業界を育てるべく台湾人エンジニアの獲得を模索する中国では、政府が支援する中国科学院が人材の「深刻な不足」を懸念。中国マイクロチップ業界の人材不足は20万人に上ったという試算もある。
アメリカでは、政府が半導体工場の誘致に何十億ドルという助成金を投じ、インテル、サムスン、TSMCなどによる新工場建設の発表が相次いでいるが、経営幹部への調査結果からは、人材不足が引き続き問題であることが明らかになっている。
地元台湾での採用難により、TSMCでは海外で工場を建設したり、従業員を訓練したりする緊急性が一段と高まった。古くから研究・製造部門を世界各国に展開していた大多数のハードウェア企業と異なり、「ファブ」と呼ばれる半導体製造工場のほとんどを台湾に建設してきたのがTSMCだ。