なぜ人気化?「国産の小麦」が大躍進を遂げたワケ 岩手発の「もち小麦」はこう育てられてきた

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収穫直前のもち姫の生産圃場(写真:筆者撮影)

その「はつもち」の改良品種として、2006年に命名登録されたのが「もち姫」だ。開発したのは、岩手県盛岡市に拠点を構える東北農業試験場(現 農研機構東北農業研究センター)。

ただ、「もち姫」も依然として小麦粉としての使い勝手が悪かったために普及は進まなかった。それどころか育成地である岩手県ですら栽培されなくなり、わずかに青森県で生産されるだけの品種になってしまっていた。

工学部出の3代目社長が始めた無謀なプロジェクト

そうした中、府金製粉から「もち姫」を仕入れ、粘り強く使ってきたのが、白石食品工業だ。東北などではシライシパンで知られる、盛岡に本社を置き、東北6県を主な商圏とする中堅製パンメーカーである。

現在の社長は白石雄一さん。大学では感性工学を学び、ソフトウェアエンジニアを経てから、会社に入った。食品とも農業とも縁遠い世界にいた白石さんは、家業を継いだ時にどこか物足りなさを感じていたという。

盛岡地方もち小麦の郷づくり研究会が主催するもち姫収穫祭(写真:筆者撮影)

「『もち姫』との出会いは、2013年に青森県立保健大学の藤田修三教授(当時)から、『どうしてももち姫を使ったパンがうまく作れないから、何とかしてもらえないか?』、と頼まれたのがきっかけでした。

この時は、弊社でもうまくできませんでしたが、唯一、シフォンケーキなら何とか作れたため、これを高島屋さんのイベントで発表してみたところ、独特の食感が好評で。それで、このもちっと感をパンで実現できたら喜んでいただけるに違いない、と本気で開発に取り組み始めました」

子供たちも鎌でもち姫を収穫する(写真:筆者撮影)

そもそも「もち姫」は麺向きの性質であり、パン向きの品種ではない。さらに、もち小麦でのパン製造についての特許も他社に押さえられていた。

「『もち姫』がここ盛岡で育成されたことを知り、いっそう盛岡産の『もち姫』を使った商品を作りたくなったのです。特許もあと数年で切れるタイミングでした」(白石さん)

すぐさま白石さんは行動に移した。農業改良普及センターとJAいわて中央に相談し、5~10トンを買い取る契約を交わし、岩手県内での「もち姫」生産を復活させたのだ。

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