なぜ人気化?「国産の小麦」が大躍進を遂げたワケ 岩手発の「もち小麦」はこう育てられてきた

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「独自の差別化商品が必要だからですが、『もち姫』は個性が強すぎたために、当初販売に大苦戦しました。小麦粉は、使用時には全量同一品種、ブレンドなどせずにある品種100%で特徴を出すのが一般的なのです。そのためユーザーが『もち姫』をうまくブレンドできず、評判を落とす状況が5~6年続きました。もうダメだ、『もち姫』は諦めようってなった時に、白石食品さんが興味をもってくださって。あと1年遅れていたら、『もち姫』の販売は止めていたでしょうね」(府金さん)

「低価格」と「こだわりのプレミアム」への二極化

食品にもちもち食感ブームが来たタイミングで、「もち姫」がうまく乗っかれたのもよかったそうだ。

「『もち姫』の名前は消費者だけでなく食品メーカーにもウケがいい。『もち姫』を指名買いしてくださっているのは、おもに岩手県内の製麺会社です。県内ではもちろん、県外のこだわりのうどん屋さんやラーメン屋さんでも『もち姫』は使われているんですよ」(府金さん)

伊勢丹新宿店での展開。首都圏でも購入できる機会がある(写真提供:白石食品工業)

食の二極化、つまり「低価格商品」と「こだわりのプレミアム商品」への流れは、この先さらに進むだろう。

地元生まれの品種であることを謳った商品での差別化が、ますます増えるのは間違いない。その品種ならではのストーリーを知ると、人はなぜかおいしさが増したように感じてしまうからだ。

ウクライナ戦争の影響により、相場連動性である小麦の価格は、現在史上最高値をつけ、今年6月からはさらなる値上げも決まっている。こうした中、国産小麦が、もっと全国に広がる日は遠くないかもしれない。

竹下 大学 品種ナビゲーター

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たけした だいがく / Daigaku Takeshita

1965年東京都生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、キリンビールに入社。新規事業としてゼロから花の育種プログラムを立ち上げ、プロジェクト中止の決定を乗り越えて同社アグリバイオ事業随一の高収益ビジネスモデルを確立。2004年には、All-America Selectionsが北米の園芸産業発展に貢献した育種家に贈る「ブリーダーズカップ」の初代受賞者に、ただひとり選ばれる。技術士(農業部門)。著書に『植物はヒトを操る』(毎日新聞社、いとうせいこう共著)、『東京ディズニーリゾート植物ガイド』(講談社、監修)、『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』(中央公論新社)、『野菜と果物 すごい品種図鑑』(エクスナレッジ)等。

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