なぜ人気化?「国産の小麦」が大躍進を遂げたワケ 岩手発の「もち小麦」はこう育てられてきた
白石食品工業向けの「もち姫」を生産している畠山芳男さんにも話を聞いた。畠山さんは、白石さんが岩手県内での「もち姫」栽培を復活させようとした際に、最初に手を挙げたひとりだ。
「イネとリンゴの他に、1997年から小麦も作り始めたんです。でもそれは古い『ナンブコムギ』で。これがもう病気に弱く、どんなに工夫しても収量が上がらない品種でして。2016年に『もち姫』に切り替えたら、一気に量が獲れるようになったんです。
何より、栽培する前から価格と買い手が決まっていて、自分が作った小麦が地元でパンになるってわかっているんですから、『ナンブコムギ』を作っていた時と気持ちは相当違いました」
10アールあたりの収量の変化は、「ナンブコムギ」の約150㎏に対して、「もち姫」は約400㎏なのだそうだ。さらに畠山さんはこう続けた。
「正直な話、『もち姫』を作るようになって収入が増えました。専業農家としてこれまで40数年やってきましたが、今が一番楽しいです。親戚に『もち姫』の小麦粉を送ってみたら、米を送っていた頃と反応が全然違うんですよ。色々おいしく作れるからまた送ってほしいって。これは大きな励みです」
畠山さんは「いつまでも健康で『もち姫』を作り続けられるように」と、3年前から大好きなお酒も控えるほどだという。
国内ニーズは輸入小麦とは異なる個性的な品種へ
ついに大手も「もち姫」を使用した商品を発売した。
2020年と2021年に限定販売された、「日清のどん兵衛 限定プレミアムきつねうどん 史上最もっちもち麺」は、調理に8分もかかる意外性と驚きの食感で話題を集めた。これに使われたもち小麦こそ、「もち姫」だったのだ。
とはいえ、「もち姫」の普及に向けてはまだまだ課題もある。冒頭で話を聞いた、製粉会社の府金製粉でも、取り扱う「もち姫」の比率は、まだ全体の0.5%にすぎない。国産小麦に限定しても2%強。それなのに府金さんは「もち姫」の普及に熱心に取り組み続けている。いったいなぜなのだろうか。
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