両利きの経営「生産性が下がる」残念な会社の盲点 ハーバードで学ぶパフォーマンスを高める方法

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あまり指摘されることはないのですが、ポーターのコスト・リーダーシップとは、このWTSを下げることが主要なドライバーになっているのです。

このように戦略とはたった1つの図で示すことができます。これが「バリュースティック」と呼ばれるものです。

(出所:『「価値」こそがすべて!』)

戦略の課題とは、WTPを高めWTSを低くすること、つまり、WTPとWTSの差額を拡大することが戦略の究極の目的となるのです。したがって、あらゆる活動は、WTPかWTSに関与しているかぎり戦略と呼ぶことができます。

しかしながら、ポーターに代表される戦略論では、このWTPとWTSの有機的な関係性が考慮に入れられておらず、たとえばポーターは、スタック・イン・ザ・ミドルという概念を提唱し、差別化戦略(WTPを高める)とコスト・リーダーシップ戦略(WTSを下げる)は両立せず、どちらか一方に特化しなければならないと主張します。両者の代替的な関係のみ重視し、補完的な関係については着目していないのです。

しかし、バリューベース戦略の重要なポイントは、WTPとWTSの間に補完的な関係性、つまり、WTPを高めると同時にWTSを低くするための方向性を見出すことにあります。この補完的な関係を見極め、それを構成する活動に注力することこそ、一石二鳥の戦略、両利きの戦略になるといえるでしょう。

両利きの戦略には生産性が鍵となる

では、具体的に同時にWTPを高めてWTSを下げる活動にはどのようなものがあるでしょうか。おそらくポイントとなるのは生産性です。

たとえば、「HBSでは優れた戦略をたった1つの図で考える」の記事で紹介したように、ファッションブランドのGAPの場合、大半がパートである店舗従業員の勤務時間が頻繁に変更され、事前に予定を立てることができないという問題がありました。それに対し、勤務時間の開始時刻と終了時刻を標準化し、従業員間でシフトの交換ができるアプリを開発しました。このような工夫により、労働生産性は6.8向上し、売り上げはほぼ300万ドル増加したのです。

通常、従業員の生産性を上げるには、インセンティブを導入したり、研修を通じて意識改革を促したりする方法が考えられます。しかし、そのような方法をとらなくても、従業員のワークライフをつぶさに観察することで、解決の糸口を発見することができるのです。これによってGAPは店舗従業員のWTSを引き下げるとともに、かれらのモチベーションを高めることで接客品質が向上し、WTPを高めることにもつながったのです。

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