両利きの経営「生産性が下がる」残念な会社の盲点 ハーバードで学ぶパフォーマンスを高める方法

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しかし、組織を分離することで本当に解決されるでしょうか。たとえば、コーポレートの基礎研究と事業部での応用研究について考えてみましょう。

基礎研究は既存の事業部から離れ、中長期的な視点から研究開発を行い、新規事業開発やラディカルイノベーションを起こしていくことも目指します。これは探索に該当します。一方、応用研究では既存事業における製品開発、改善を目指すもので、これは深化になります。

この両者を分離させることで何が生じたかといえば、コーポレートでの研究が事業部から分断され、現場情報が入らないなかで研究を行わなければならないということです。その結果、成功確率の低いプロジェクトばかりがはびこり、基礎研究のパフォーマンスは逆に低下することになります。

三菱化学が2000年に当時MIT教授であったジョージ・ステファノポーラスをCTO(最高技術責任者)・常務執行役員として起用し、アメリカ型MOT(技術マネジメント)を取り入れ、研究開発体制を改革した事例は、当時、MOTの重要性を示す典型的なものとして注目を浴びました。

この研究開発体制の下では、コーポレートが新規事業のための研究開発を行い、その成果は正味現在価値として定量的に評価され、それを対価として事業部に引き継がれるように設計されていました。つまり、コーポレート主導で開発された技術を事業部が買い取り、それをもとに具体的な製品、サービスを開発していくことになっていたのです。

しかし、そもそも事業部の状況を反映していない夢物語の成果を押し付けられても現場は混乱するだけです。この改革はすぐに頓挫することになりました。問題の原因は、事業部とコーポレートとのコミュニケーションの分断にありました。その結果、同社ではコーポレート主導の研究開発を最終的に廃止することになりました。

基礎研究と応用研究という探索と深化について、組織を分離することで両立を図ったのですが、その両利きの経営の実践がつまずきの大きな原因になったのです。

両利きの経営の貧困

両利きの経営の問題点は、深化と探索の補完的な関係を無視しているところにあります。確かに深化と探索は矛盾するところがあり、そのまま放置しておくとグレシャムの法則が適用されます。

深化とは日常業務に直結する活動であり、日銭に直結します。一方、探索は中長期的な活動でありすぐに成果が出ることはありません。そのため、どうしても深化が優先されることになるのです。

しかし、探索をするには深化によるインプットが必要になります。両者を分断すれば、ゼロの地点から新たな研究を開始することを余儀なくされます。すると、いままで培ってきた強みを生かすことができず、優位性はなくなります。そのため、探索に特化することで逆にパフォーマンスは低下することになるのです。

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